ヒロインは一度大きく息を吸った。それだけで脇腹が痛む。

「痛っ…絶対、許さない…！」

　ヒロインは背にかけられたレノのジャケットに腕を通した。
　そして、近くに転がっていた靴を拾って履くと、壁伝いに裏口に向かった。

　裏口から出た先は、ほぼ明かりもない真っ暗な通りだった。人通りもない。

　一体二人はどこに行ったのか。
　ヒロインは耳をすませ、微かな音も拾おうと集中した。

　左手方向から走っているような音が聞こえてくる。
　ちょうどそちらは、被害者が発見された方向でもあった。
　ヒロインは脇腹を押さえながら、音の方に向かって走った。



「いい加減、大人しく、しろ！」

　レノがマスターの持つナイフをロッドで弾いた。

「くそおおおおおお」

　マスターが奇声を上げ、我が身を顧みずレノに突進した。
　レノはそれを余裕を持ってかわす。
　すぐにつんのめるだろうと思ったが、マスターはそのまま来た道を走っていく。

「マジかよ…」

　また追いかける羽目になったレノは辟易しながらもマスターの後を追った。



「殺してやるうううううう！」

　ヒロインは奇声を上げながらこちらに向かってくるマスターに目を剥いた。逃げていたのではなかったのか。
　マスターの目は真っ直ぐヒロインを見ていた。

「手負いの女だからって――」

　ヒロインは少し身を屈めると、素早く襲い来るマスターの腕をとった。
　
「甘く見るな！」

　そして、そのまま自分の背にマスターを背負うと、その勢いのまま投げ飛ばした。
　マスターは頭からゴミ箱に突っ込み、意識を失っていた。

「お見事」

　本日2回目の一本背負いを決めたヒロインに、レノはにやりと笑った。



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