仮面の女 -Imitation Actress-
ヒロイン
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レインの復帰記者会見場で起こった事件は、どの報道番組でもトップニュースとして扱われた。さらにテレビだけでなく、ラジオ、新聞、雑誌、ネット――様々な媒体で取り上げられた。
初日こそレインの容態は不明となっていたが、翌日、正式にレインの死亡が発表された。
繰り返し流される復帰会見の映像と搬送されるレインの姿。
人々は、一人の女優の死を心から悼んだ。
レノは今日も変わらず流されるレイン死亡報道に辟易した。
「ちょっと派手にやりすぎたぞ、と」
「まあいいじゃないですかー。それでこそ信憑性が上がるってもんですよ」
ヒロインはテレビを見ながら、にやりと笑った。
レノがいるのはヒロインの病室。
会場で死にかけていたヒロインは、今やテレビを見られるぐらい元気になっていた。
「搬送シーンはさすがに生々しすぎたな…」
真っ赤に染まったドレスと血の気のない顔。これを見れば死を裏付ける証拠になると、情報操作のために流した映像だったが、そのショッキングな映像のせいで何日経っても報道が沈静化しない。
さすがにテレビでは血まみれの姿まで映していないが、衝撃的な映像であることには違いない。
「まぁ確かに、死にそう!ってなってますね」
当の本人はケラケラと笑っているが、あの日、死にかけのヒロインを抱いていたレノにしてみれば笑い事ではない。思い出すと今でも背中に冷たいものが走る。
「お前なぁ…こっちがどれだけ心配したと…」
レノは自然と真剣な顔になった。すると、ヒロインは少し驚いていたが、すぐに神妙な面持ちになった。
「先輩のおかげで、ちゃんとレインに幕引きができました。ありがとうございます」
ヒロインにしては珍しく殊勝な顔をしていた。
「でも、嫌な役目、押し付けちゃいましたね…すみません」
レインを殺す。
あの場でのヒロインの願いを、レノは叶えた。もうレインが復活することはない。
それは、失恋したような切ない痛みを伴った。
しかし――
「他の奴がレインになるよりは数倍マシだぞ、と。それに、心奪われた女性に自分で引導渡せるってのは、それはそれで――」
そこまで言って、レノははっとした。
これではまるで…
ヒロインは耳たぶまで真っ赤にしていた。
「あ、ちがっ…」
「わ、わかってます!レイン、レインですよね!?うん、レインですもんね!」
そう、心奪われたのはレイン。
そこにいるだけで人を魅了するレインと、ともすれば男性にも見えるヒロインは似ても似つかない。
はずなのだが。
恥じらい、うつむく姿は女性のそれで、普段とは違う仕草を見せるヒロインにレインが重なった。
紛れもなくヒロインはレインで、レインはヒロイン。
当たり前の事実を認識してしまったレノは、まともにヒロインを見ることができず、目を逸した。
一方、ヒロインもレノから視線を逸し、小さく溜息をこぼした。
「ライバルはレイン、か…」
ヒロインは恨めしそうにテレビに映るレインを見て、もう一度、今度は大きな溜息をついた。
END
2018/10/10
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初日こそレインの容態は不明となっていたが、翌日、正式にレインの死亡が発表された。
繰り返し流される復帰会見の映像と搬送されるレインの姿。
人々は、一人の女優の死を心から悼んだ。
レノは今日も変わらず流されるレイン死亡報道に辟易した。
「ちょっと派手にやりすぎたぞ、と」
「まあいいじゃないですかー。それでこそ信憑性が上がるってもんですよ」
ヒロインはテレビを見ながら、にやりと笑った。
レノがいるのはヒロインの病室。
会場で死にかけていたヒロインは、今やテレビを見られるぐらい元気になっていた。
「搬送シーンはさすがに生々しすぎたな…」
真っ赤に染まったドレスと血の気のない顔。これを見れば死を裏付ける証拠になると、情報操作のために流した映像だったが、そのショッキングな映像のせいで何日経っても報道が沈静化しない。
さすがにテレビでは血まみれの姿まで映していないが、衝撃的な映像であることには違いない。
「まぁ確かに、死にそう!ってなってますね」
当の本人はケラケラと笑っているが、あの日、死にかけのヒロインを抱いていたレノにしてみれば笑い事ではない。思い出すと今でも背中に冷たいものが走る。
「お前なぁ…こっちがどれだけ心配したと…」
レノは自然と真剣な顔になった。すると、ヒロインは少し驚いていたが、すぐに神妙な面持ちになった。
「先輩のおかげで、ちゃんとレインに幕引きができました。ありがとうございます」
ヒロインにしては珍しく殊勝な顔をしていた。
「でも、嫌な役目、押し付けちゃいましたね…すみません」
レインを殺す。
あの場でのヒロインの願いを、レノは叶えた。もうレインが復活することはない。
それは、失恋したような切ない痛みを伴った。
しかし――
「他の奴がレインになるよりは数倍マシだぞ、と。それに、心奪われた女性に自分で引導渡せるってのは、それはそれで――」
そこまで言って、レノははっとした。
これではまるで…
ヒロインは耳たぶまで真っ赤にしていた。
「あ、ちがっ…」
「わ、わかってます!レイン、レインですよね!?うん、レインですもんね!」
そう、心奪われたのはレイン。
そこにいるだけで人を魅了するレインと、ともすれば男性にも見えるヒロインは似ても似つかない。
はずなのだが。
恥じらい、うつむく姿は女性のそれで、普段とは違う仕草を見せるヒロインにレインが重なった。
紛れもなくヒロインはレインで、レインはヒロイン。
当たり前の事実を認識してしまったレノは、まともにヒロインを見ることができず、目を逸した。
一方、ヒロインもレノから視線を逸し、小さく溜息をこぼした。
「ライバルはレイン、か…」
ヒロインは恨めしそうにテレビに映るレインを見て、もう一度、今度は大きな溜息をついた。
END
2018/10/10
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