仮面の女 -Imitation Actress-
ヒロイン
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やはり脅迫だけだったかと、安堵しかけたレノの肌が粟立った。
会場の前方、ちょうどヒロインの真正面で男が一人立ち上がっていた。その顔にはガスマクスがついている。男の異様な雰囲気を察した近くの人々から、徐々に周囲に動揺と混乱が伝わっていく。
「まずいぞ、と」
レノは男に向かって真っ直ぐと走り出す。会場がパニックになる前に取り押さえる――!
「爆弾だ!!」
誰かが叫んだ。
その一言は、危うい均衡を保っていた人々を恐慌状態にするには十二分すぎた。
たちまち悲鳴が上がる。
人々は我先にと出口に駆け出した。
「ちっ」
流れに逆らい、舞台側に行こうとするレノを人の波が押し戻す。
あともう少し、もう少しで手が届く。
その願いも虚しく、男は手にした筒のようなものから、ピンを抜いた。
そしてそれを高く掲げ、ヒロインに向かって投げつけた。
あれが爆弾なら、ヒロインはどうなる?
「逃げろ!」
男が投げた筒は舞台の手前に落ち、地面に当たると大量の煙を吐き出した。
煙が舞台上のヒロインの姿をかき消した。
レノは強引に人並みをかき分け、男の背中に飛びかかった。
男はあっけなく倒れた。どうやら他に武器は所持していないらしい。
レノは手早く男の手足を結束バンドで拘束した。
「ったく、びびらせるんじゃないぞ、と」
爆弾かと思いヒヤヒヤしたが、男が投げたのはただの発煙弾だったようだ。
そんなもので人を殺せると思ったのだろうか。
「…もの。あいつは――」
男が小声で何かを言った。
人々が逃げ、がらんとした部屋に、今度ははっきりと男の声が響いた。
「あいつは偽物だ!俺は、本物に頼まれたんだ!レイン、俺やったよ!!」
『本物』のレイン。
清涼飲料水を片手に微笑んだ、あの――
レノははっとして舞台を見上げた。
少し薄れた煙幕に映る二つの影。
本物と偽物。
「ヒロイン!!」
レノはあらん限りの大声で叫んだ。
一つの影がぐらりと傾ぎ、灰色のスクリーンの向こうに消えた。
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会場の前方、ちょうどヒロインの真正面で男が一人立ち上がっていた。その顔にはガスマクスがついている。男の異様な雰囲気を察した近くの人々から、徐々に周囲に動揺と混乱が伝わっていく。
「まずいぞ、と」
レノは男に向かって真っ直ぐと走り出す。会場がパニックになる前に取り押さえる――!
「爆弾だ!!」
誰かが叫んだ。
その一言は、危うい均衡を保っていた人々を恐慌状態にするには十二分すぎた。
たちまち悲鳴が上がる。
人々は我先にと出口に駆け出した。
「ちっ」
流れに逆らい、舞台側に行こうとするレノを人の波が押し戻す。
あともう少し、もう少しで手が届く。
その願いも虚しく、男は手にした筒のようなものから、ピンを抜いた。
そしてそれを高く掲げ、ヒロインに向かって投げつけた。
あれが爆弾なら、ヒロインはどうなる?
「逃げろ!」
男が投げた筒は舞台の手前に落ち、地面に当たると大量の煙を吐き出した。
煙が舞台上のヒロインの姿をかき消した。
レノは強引に人並みをかき分け、男の背中に飛びかかった。
男はあっけなく倒れた。どうやら他に武器は所持していないらしい。
レノは手早く男の手足を結束バンドで拘束した。
「ったく、びびらせるんじゃないぞ、と」
爆弾かと思いヒヤヒヤしたが、男が投げたのはただの発煙弾だったようだ。
そんなもので人を殺せると思ったのだろうか。
「…もの。あいつは――」
男が小声で何かを言った。
人々が逃げ、がらんとした部屋に、今度ははっきりと男の声が響いた。
「あいつは偽物だ!俺は、本物に頼まれたんだ!レイン、俺やったよ!!」
『本物』のレイン。
清涼飲料水を片手に微笑んだ、あの――
レノははっとして舞台を見上げた。
少し薄れた煙幕に映る二つの影。
本物と偽物。
「ヒロイン!!」
レノはあらん限りの大声で叫んだ。
一つの影がぐらりと傾ぎ、灰色のスクリーンの向こうに消えた。
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