レノはヒロインよりひと足早く会場入りし、舞台の間近から会場の様子を観察していた。
　それほど大きくない会場に記者たちが溢れかえっている。
　しかし、集まった記者たちは、今回のレイン復帰にあまり好意的ではないらしい。

　今更、復帰しても居場所はないだろう。
　所詮、過去の女優。

（ま、そりゃそうだよな）

　記者たちの評価には、レノも納得せざるを得ない。
　もしそれが、偽物のレインならば。

「それでは、会見を始めます」

　司会者の男が会場に向かって声をかけた。
　記者たちとレノは、舞台に視線を向けた。

　舞台袖から、ロングドレスを身にまとった、すらりとした長身の女性が現れた。
　凛としたその姿と力強い視線、圧倒的な存在感。
　会場にいた記者たちは息を飲んだ。

　ヒロインは記者会見の壇上に上がった。舞台女優の『レイン』として。

　舞台でライトを浴びるヒロインは、紛れもなくあの日見たレインそのものだった。
　ヒロインに目を奪われていたレノとヒロインの視線が交わる。一瞬、ヒロインがその口元に笑みを浮かべたように見えた。

　一瞬にして会場の空気をものにしたヒロインは一度会場を見渡し、深々と一礼した。

「本日はお忙しい中、お集まり頂きありがとうございます」

　ヒロインは台本などまるで無視して、復帰の理由や女優という職業についての思いを語った。

「本当は、あの舞台で引退するつもりでした。しかし、ある人にもう一度舞台に上がってみないかと言われ、こうしてこの場に立つ決意をしました」

　ヒロインの表情は晴れやかで、その視線は真っ直ぐ前に向けられている。
　レノはわずかに頬を緩ませた。

　本物としての最後の舞台。今まさに、その幕が下りようとしていた。



.