仮面の女 -Imitation Actress-
ヒロイン
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レノとヒロインは、指示されたホテルの部屋で『レイン』に対面していた。
目の前の『レイン』は、本物には似ても似つかなかった。レノの目から見て、だが。
確かに化粧はかなり似せているが、目や口元に本物ほどの力強さはない。目の前の『レイン』を名乗る女性は、どちらかというとアイドルと言ったほうが近い、可愛らしい女性だった。
しかし、わずか1ヶ月、しかも舞台しか露出がなかったのであれば、大衆は彼女を本物と思うだろう。現に、ヒロインの顔は硬い。
「あなたが、私の代わりの人?」
見た目のイメージそのままの愛らしい声で、『レイン』がヒロインの方を見て言った。大丈夫かと、その顔が言っている。
不安と疑念を隠そうともしない。
ヒロインの眉間にシワが寄る。それ以上に、レノは苛立ちを覚えた。
偽物がいけしゃあしゃあと。
そう言い放ちたいのは山々だったが、これでも自分たちはプロで、今は仕事中だ。
レノは舌打ちと頭に浮かんだ言葉を吐く前に飲み下した。
「大丈夫ですよ、と。彼女、『プロ』ですから」
レノはヒロインを見て、ニヤリと笑った。
ヒロインの表情からこわばりが少し消えた。一つ、二つ、短く呼吸すると、ヒロインが真っ直ぐ顔を上げた。
「あとは任せてもらって大丈夫です」
自信に満ちた表情で、声で。一瞬、ヒロインが舞台の上の『レイン』に見えた。
『レイン』を名乗る女性も、わずかに目を丸くしていた。
「なら、後は任せるわ。はい、これ台本」
『レイン』を名乗る女性がクリップで留めた数枚の紙をヒロインに渡した。
「承知しました」
ヒロインは部屋を出てからも、一度も渡された台本に目を通すことはなかった。
車まで戻り、助手席に座ったヒロインが大きく息を吐いた。
「あー疲れた」
背もたれを倒し、大きく伸びをする。そのときに、手にしていた台本を後部座席にぽいっと放った。
「おいおい、見なくていいのかよ」
レノは投げられた台本を手に取り、ぱらぱらと中身を読んでみた。
「『なぜ、復帰しようと思ったんですか?』」
ヒロインが問うた。レノはその問いに対する答えを台本から探す。
「「『ある舞台の脚本に感銘を受け、ぜひ出演したいと思い、復帰を決意しました』」」
レノの読み上げと一言一句違わず、ヒロインがつまらなそうに言った。
「そんな落書き見なくても、望む答えを『レイン』が話しますよ。プロですから」
それは女優としてか、タークスとしてか。
二人は無言で帰路についた。
ヒロインはずっと窓の外――いや、窓に映る自分の顔を見ているようだった。仮面のようになんの感情も映さない顔を。
「先輩、明日、この前の場所に迎えに来てください」
ヒロインは一度もレノの方を見ずに、帰っていった。
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目の前の『レイン』は、本物には似ても似つかなかった。レノの目から見て、だが。
確かに化粧はかなり似せているが、目や口元に本物ほどの力強さはない。目の前の『レイン』を名乗る女性は、どちらかというとアイドルと言ったほうが近い、可愛らしい女性だった。
しかし、わずか1ヶ月、しかも舞台しか露出がなかったのであれば、大衆は彼女を本物と思うだろう。現に、ヒロインの顔は硬い。
「あなたが、私の代わりの人?」
見た目のイメージそのままの愛らしい声で、『レイン』がヒロインの方を見て言った。大丈夫かと、その顔が言っている。
不安と疑念を隠そうともしない。
ヒロインの眉間にシワが寄る。それ以上に、レノは苛立ちを覚えた。
偽物がいけしゃあしゃあと。
そう言い放ちたいのは山々だったが、これでも自分たちはプロで、今は仕事中だ。
レノは舌打ちと頭に浮かんだ言葉を吐く前に飲み下した。
「大丈夫ですよ、と。彼女、『プロ』ですから」
レノはヒロインを見て、ニヤリと笑った。
ヒロインの表情からこわばりが少し消えた。一つ、二つ、短く呼吸すると、ヒロインが真っ直ぐ顔を上げた。
「あとは任せてもらって大丈夫です」
自信に満ちた表情で、声で。一瞬、ヒロインが舞台の上の『レイン』に見えた。
『レイン』を名乗る女性も、わずかに目を丸くしていた。
「なら、後は任せるわ。はい、これ台本」
『レイン』を名乗る女性がクリップで留めた数枚の紙をヒロインに渡した。
「承知しました」
ヒロインは部屋を出てからも、一度も渡された台本に目を通すことはなかった。
車まで戻り、助手席に座ったヒロインが大きく息を吐いた。
「あー疲れた」
背もたれを倒し、大きく伸びをする。そのときに、手にしていた台本を後部座席にぽいっと放った。
「おいおい、見なくていいのかよ」
レノは投げられた台本を手に取り、ぱらぱらと中身を読んでみた。
「『なぜ、復帰しようと思ったんですか?』」
ヒロインが問うた。レノはその問いに対する答えを台本から探す。
「「『ある舞台の脚本に感銘を受け、ぜひ出演したいと思い、復帰を決意しました』」」
レノの読み上げと一言一句違わず、ヒロインがつまらなそうに言った。
「そんな落書き見なくても、望む答えを『レイン』が話しますよ。プロですから」
それは女優としてか、タークスとしてか。
二人は無言で帰路についた。
ヒロインはずっと窓の外――いや、窓に映る自分の顔を見ているようだった。仮面のようになんの感情も映さない顔を。
「先輩、明日、この前の場所に迎えに来てください」
ヒロインは一度もレノの方を見ずに、帰っていった。
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