そこまで言ったヒロインは、トレイで顔を隠した。



　最後に言った言葉は、トレイに遮られてよく聞こえなかった。



　俺の頭の中でヒロインの言葉が反芻される。





　『彼女がいるの知らなくて』？





　何かおかしい。



「なぁヒロイン。彼女って一体何のことだ？」



　トレイを下げたヒロインが戸惑ったような顔をした。



「金髪の女性…駅前で一緒に歩いているのを、昨日――」



　昨日？



　金髪の女性？



「あ…」



　思い出した。



　昨日は敵を尾行していて、相手に気付かれないように腕を組んで歩いていた。





　――イリーナと。





　彼女だと誤解されていると知ったら、イリーナは憤慨することだろう。



　冗談じゃない、と。



　その光景を想像し、俺は思わず吹き出した。



「あいつは彼女じゃないぞ、と。ただの同僚」



　笑いを噛み殺して言うと、トレイから半分覗くヒロインの顔がみるみる赤くなった。



　真っ赤なバラのように。



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