ヒロインは、何も言わない。



　俺も、何も言えなかった。





　この気まずい空気、どうしたらいいんだ…





「レノ、あの――」



　俺が何と言って謝ろうか考えていると、ヒロインが俯いたまま口を開いた。



「これって――」



　ヒロインの顔が、より一層赤くなった。



　どうやら、気付いてくれたらしい。



　いっつも仕事してて、俺のことなんか見てくれなかったからな。



　これは、怪我の功名というべきか。



　俺はヒロインに近づき、今度は驚かさないよう、ゆっくり抱き締めた。



「ヒロインの、考えている通りだぞ、と」



　びくっとヒロインの身体が震えた。





「…やっぱり、怒ってるんだ」





「…は？」



　おいおい、鈍いにも程があるだろ。



　俺はヒロインを放し、正面から見つめた。



　ヒロインの目には、不安の色。



　冗談で言っているわけではないらしい。



　俺は、本気で痛くなってきた頭を押さえた。



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