翌日、オフィスで顔を合わせたヒロインは、いつものように素っ気なかった。




　付かず離れずの『同僚』としての距離。




　仕事中にヒロインがこの距離を越えることは決してない。



　レノ自身も、ヒロインの引いた境界線は越えない。



　ヒロインが嫌がるからだ。



　二人とも無関心を装っているため、恐らく、二人の関係を知る者はいない。



　だから、タークスのメンバーがヒロインにちょっかいを出すことは多々あった。



　普段なら、それも笑って済ますことができた。



　ヒロインが、レノに対するのと同じように、他のメンバーも適当にあしらっていたからだ。



　しかし、今日は違っていた。





「やだ、笑わせないでよ」



　ヒロインが、笑っていた。



　楽しそうに。





　それは、レノが見たことのない表情だった。



　そんな顔もできるのかと驚きながらも、レノの心は静かに闇に侵食されていった。



　そして、追い打ちを掛けるように、ヒロインから「今日は会わない」とメールが来た。



「どうせ、あいつと会うんだろ」



　同僚と楽しそうに話すヒロインを思い出し、レノは苛立たしげに舌打ちした。



　その日はオフィスに戻る気になれず、レノは八番街の警備を口実に会社を出た。





　一応ぐるりと八番街を周り、仕事を終えたレノは、真っ直ぐ自宅に帰った。



　もしかしたら、ヒロインから連絡が来るかもしれないと期待して。



　だから彼女の誘いも断り、一人自宅のリビングでじっとヒロインからの連絡を待った。



　携帯を手の届く位置に置き、着信音が鳴るたびに手を伸ばして確認するが、ヒロインから連絡は来ない。



　一時間、二時間と時間は過ぎていく。



（何で俺、こんなにもヒロインのこと待ってるんだ？）



　レノはソファに横になりながら、ぼんやりと携帯を見つめた。



　今まで、これほど誰かを待ちわびたことはない。



　ヒロインは特別だった。



「あー、俺、ヒロインのこと本気で好きなのかも」





　そう答えが出ると、いても立ってもいられず、レノは家を飛び出した。



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