あれから一睡もできなかったヒロインは、胃炎と吐き気を抱えながら出社した。



　レノと顔を合わせなければならないと思うと足は鈍ったが、止めることはなかった。



　止まれば、二度と動けないことがわかっていたからだ。



（大丈夫、一人でも――）




「レノ、ヒロイン、二人で八番街の見回りに行ってきてくれ」



　ツォンから任務が下された瞬間、胃が締め付けられるように痛んだ。



　まだ、とても普通にできそうにない。



　それはレノも同じらしく、ヒロインとレノは、一度も互いを見ることなく、任務に就いた。





「…俺は東側、ヒロインは西側でいいな？」



　八番街に着くと、レノが事務的な口調で担当範囲を分けた。



　それに対し、ヒロインは力なく頷いた。



「…じゃあ、また後でな」



　ヒロインは、階段を下りていくレノの背中を見送った。



　その背中が段々小さくなる。



　それに合わせるように、不思議と視界も狭くなっていく。





　ぐらり。





　世界が傾いだ。





　小さな青空が、ほんの一瞬視界を掠めた。





　回っている。





　誰が？





　私、自身？










「ヒロイン！」










　最後に聞いたレノの声。





　ヒロインは精一杯の笑顔を浮かべた。















「…子供？」



　レノは自分の耳を疑った。





　ヒロインが倒れ、レノはすぐにヒロインを病院に運んだ。



　そして、医師からヒロインが倒れた原因を聞かされたのだった。



「あまり状態はいいとは言えませんが、妊娠は間違いありません」





　医師の言葉に、レノは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。



「何で、言わないんだよ…」



　子供のことをヒロインが一人で抱えていたのを知り、レノは昨日のやりとりを激しく後悔した。



　ヒロインが倒れたのは、昨日のことが原因に違いない。



「ヒロイン…」



　レノは、ヒロインの手を強く握った。



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