子供ができたことがわかって一月が過ぎた。



　ヒロインは、その間ずっとレノとの行為を拒み続けた。



　様々な言い訳で、今までなんとか乗り切ってきたが、しかしそれも限界に来ていた。



　レノから向けられる視線は、労りから疑惑に変わりつつある。



　ヒロイン自身の精神的負担も、限界に達しつつあった。










「ヒロイン、今日はいいだろ？」



　ソファに腰掛けていたヒロインの肩に、レノの腕が回される。



　ヒロインはやんわりとその手を外した。



「レノ、今はちょっと…」



「またかよ」



　チッとレノが舌打ちする。



「…ごめん、なさい」



　不機嫌なレノの気配に押され、ヒロインはか細い声で謝罪した。



　それが余計に癇に触ったのか、レノが再度舌打ちした。



「ヒロインの『ごめん』は聞き飽きたぞ、と」



　吐き捨てるように放たれた言葉が、ヒロインの胸に刺さった。



　キリキリと胃が痛みだす。



　吐き気を催したヒロインは、両手で口元を押さえた。



「また、気分が悪いのか？俺とヤりたくないなら、はっきりそう言えよ！」



　嘲るように笑っていたレノが、貯まりに貯まっていた怒りを爆発させた。



　ヒロインはレノの怒声に、耳を覆った。



「他に男でもできたのか！？」



　ヒロインは首を振る。



「違…」



　皆まで言い切る前に、ヒロインはレノに押し倒された。



　怒り、苦しむレノの表情。



　レノにそんな顔をさせているのが自分であることが、何よりヒロインには辛かった。



「…お前、最近おかしいぞ」



「レノ、あのね…」





　言わなければ。



　ちゃんと、伝えないと――





「――別れよう」



　ヒロインがレノに打ち明ける決意をして、すぐのことだった。



　ヒロインの頭が真っ白になる。



　その後、二、三言話をした気がするが、よく覚えていない。



　気が付くと、レノはそこにいなかった。



　一人残され、呆然とするヒロインの目から、一筋涙が零れた。



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