ヒロインは自分の席に座り、頬杖をつきながら、さっき聞いたことを反芻した。





　レノに隠し子。





　女性関係が激しいレノだから、あり得ないとは言い切れない。



　でも、自分と付き合いだしてからは、浮気もしていないはずだ。



　たまたま耳にしなかっただけかもしれないが。





　このタイミングで『隠し子』の話が出てきたことに、ヒロインは少なからずショックを受けていた。



　自分の中にいる新しい生命と、既に生まれ出た命。



　レノは、どちらを選択するのだろう。



　子供ができたことを言えば、レノは自分の傍にずっといてくれるだろうか。



　でもそれは、もう一人の子供から、父親を奪うということ。



　それがとても罪深いことのような気がして、ヒロインはレノに子供ができたことを言うべきか迷った。





「なぁに朝から怖い顔してるんだ？」



「っ！」



　至近距離からレノに顔を覗き込まれていることに気付き、ヒロインは激しく身体をびくつかせた。



「おいおい、いくら何でも驚きすぎだぞ、と」



　苦笑するレノに、ヒロインは曖昧に笑う。



「ごめん、ちょっと考え事してて…」



「ふーん…」



　訝しむようなレノの視線を直視できず、ヒロインはさっと目を逸らした。



「…そういや、昨日言ってた話ってのは？」



　ヒロインの心臓が大きく脈打った。



「あ、その…」



　冷や汗をかきながら、ヒロインは必死で言葉を探す。





　本当のことを言うべきか否か。





「ごめん、たいした話じゃないから、忘れちゃった」



　レノが軽く眉を寄せた。



「…本当に？」



「うん…思い出したら、また言うから…」



「…わかった」



　レノの表情は、とても納得しているものではなかったが、この場をなんとか乗り切れたヒロインは、ほっと息をついた。





（でも、どうしよう…）



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