ヒロインは俯せに倒れ、虚ろな瞳で薄汚れた床面を見ていた。



「くそ、世話やかせやがって…！」



　男が血の混ざった唾を吐いた。



「おとなしく犯されてりゃ、こんな痛い目見ずにすんだのによぉ…！」



　男の声が遠い。



　痛みも感じなくなってきた。



「ごほっ…」



　咳き込んだヒロインの口から吐き出された血が、床に新たな染みを作った。



「あーぁ、結局殺すのかよ」


「これじゃ犯れねぇな」



　何人もの男の足が見える。



「どうせなら、あの男の前で殺してやりゃよかったな」



　男たちの下品な笑いが響き渡った。





（結局、レノに謝れなかったな…）



　ヒロインは遠退く意識の中、レノを思い出していた。



　飄々として掴めなくて、女好きで浮気者で、約束すら満足に守れない。



　でも――



（あなたに会えて、うれしかった…）



「レ――…き」



　ヒロインはゆっくりと目を閉じた。




















　ピッ――ピッ――ピッ――



　規則正しく刻まれる電子音が耳につき、ヒロインは目を開いた。



（ここは――）



「先生！意識が戻りました！」



　ヒロインは声のした方に顔を向けた。



　真っ白な服を着た人が二人、近づいてくる。



「わかりますか？」



　声を掛けられたヒロインは、小さく頷いた。










「ヒロイン」



　ヒロインは先程よりは軽さを感じる瞼を持ち上げ、首を傾けた。



「――レ、ノ」



　一番初めに目に入ったのは、思い詰めたレノの表情だった。



「ごめんな、ヒロイン…俺のせいで――」



　ヒロインは首を振った。



　そして、握られた手を握り返した。




　――謝らないで




　そう伝えたくて。



「…ノ――…き」



「え？」



　ヒロインは微笑んで、口を動かした。





　――レノ、大好き



END


2007/11/17


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