ヒロインとの待ち合わせ場所――八番街の噴水前に着いたレノは、四方八方を見回した。



　しかし、ヒロインの姿はそこになかった。



　電話が切れて10分経つ。



　やはり怒って帰ってしまったのだろうか。



　しかし、どうも解せない。



「なぁんかおかしいぞ、と」



　経験からきな臭いものを嗅ぎ取り、レノは眉間に皺を寄せた。



　嫌な予感がする。





　トゥルルル――





　ポケットに突っ込んでいた携帯が鳴った。



　レノは携帯を手に取り、背面ディスプレイに流れる文字を読んだ。



　そこには『ヒロイン』と、確かに表示されていた。



　レノは舌打ちをして、無言で電話に出た。



「…」



『よぉ、タークスのレノさん？』



　電話の向こうから男の怒声が聞こえる。



　レノはわずかな音も聞き逃すまいと、耳に意識を集中させた。



『あんたの大事なもん預かってるぜ』



　レノは片眉を上げた。



　携帯がみしりと音を立てる。



『レノ！地下に――きゃっ！』



　ヒロインの悲鳴と頬を張ったような乾いた音が反響する。



『何やってんだ！？』



「――おい」



　レノはそこに敵がいるかのように、眼前を鋭く睨み付けた。



「人質は丁重に扱えよ」



『さぁどうしようかねぇ』



　男が笑いを声に乗せた。



　にやつく笑いを張りつけていることだろう。



　気に入らない。



『さて、取引だ。俺たちをミッドガルから出してもらおうか』



「そんなこと俺ができるわけないだろ、と」



『じゃあこいつは殺す』



　カチッと聞き慣れた音がレノの耳に届く。



（まさか――撃つ気か！？）



「やめろ！」



　パーーーン――



　レノが制止する間もなく、銃声が響いた。



『さっきの話は忘れてくれ』



　通話が終了した。



　男の高笑いだけが、やたら耳に残った。



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