今日も怒らせた。



　昨日は泣かせた。



　その前は目にいっぱい涙を溜めて、唇を噛み締めていた。



　そして今、彼女は「大嫌い！」と叫んで去った。





　本当は好きで好きでたまらないのに。





　あぁ神様。



　できるなら、この天の邪鬼な性格をなんとかしてくれ。





Trick！



「レノ、ヒロインはどうした？今日は二人だと聞いていたが？」



　社長のルーファウスが怪訝そうな顔をした。



　レノは視線を上向けて、頬を掻いた。



「…ちょっとした手違いが」



　そう答えると、ルーファウスが呆れたように溜息をついた。



　またか、とその顔には書いてある。



　レノは何も言えず、苦笑いを浮かべた。




　と、そこへバタバタと音を立て、一人の女性が騒々しく駆け込んできた。



「社長…！すみません、遅れて」



　余程急いできたのか、女性は息を切らしていた。



　上げた顔、その目元は腫れぼったく、泣き腫らした様子が一目で見て取れた。



　ルーファウスがにやりと笑って言った。



「もういいのか、ヒロイン？」



「…はい」



　一瞬ヒロインの視線がレノを捉えた。



　しかしレノは気付かぬ振りをして、そっぽを向いた。



　今更どんな顔をすればいいのかわからない。



　それに、何でもないと気を張って、気丈に振る舞うヒロインを見ていると何故だかむしゃくしゃしてくる。



　またむくむくと悪戯心が目を覚まし始めている。



　レノはコントロールの利かない自分の感情に苛立ち、小さく舌打ちした。




　それを聞いたヒロインがびくっと身体を震わせる。



　横目でヒロインを見ていたレノは口を歪めた。



「まぁた泣くのか、ヒロインちゃん？」



「誰が！」



　強気な口調ではあったが、ヒロインの目にはまた涙が浮かんでいた。



　またやってしまった。



　後悔しても遅い。



「私の前で痴話喧嘩はやめてくれないか」



　溜息混じりのルーファウスの言葉に、レノはそっぽを向いた。



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