「痛っ！」


　深夜のタークスのオフィスにレノの叫び声が響いた。



「うるさい。動くな」



　ヒロインが傷口に無遠慮な手つきで触れると、レノは全身に走った痛みのために身体を引いた。



　しかし、手当てをするヒロインにぴしゃりと怒られ、レノは顔をしかめながらも身体を動かすことだけは我慢する。



「今月何回目？」



「さぁ」



　相手の男に浮気がばれ、殴られた回数などいちいち覚えていない。



「はい、おしまい」



「いてぇ！！」



　にこっと笑ったヒロインがわざと切れた口元を摘むと、自然と目に涙が溜まった。



「もっと優しくしろよ、と」



「あんたみたいな男に優しくするだけ損よ」



　ヒロインは鼻で笑うと、救急箱を持って立ち上がった。



「ありがとな」



　レノはヒロインにきつく摘まれた口元を押さえながら、その後ろ姿に礼を言った。



　すると、ヒロインの足がぴたっと止まった。



「…お礼はいいから、もうやめなさいよ」



「…わかってるぞ、と」



「どうかしら」



　肩を竦めたヒロインは、パーティションの向こうにある戸棚に歩いていった。



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