無防備な薬指
ヒロイン
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夜。
仕事が終わる時間に、いつものように『彼女』から電話がかかる。
ただのペアリングが、俺の全てを縛り付けている。
そんな状態にうざったさを感じ、『彼女』には残業だと嘘をついて、俺は夜の街に繰り出した。
もちろん、指輪は外したまま。
久しぶりの一人の夜。
指輪がないだけで、妙に軽い気持ちになっていることに気付く。
開放的な気分になりながら、俺はよくヒロインと行ったバーに向かった。
いないとわかっていたが、少しだけヒロインに会えるのではという期待を抱きながら。
「よぉレノ、久しぶりだな」
店に入ると、顔馴染みのマスターがにやにや笑いながら話し掛けてきた。
「なぁに笑ってるんだ、と」
不自然な様子のマスターに苦笑しながら、俺はカウンターに座った。
「やっぱりそこに座るんだな」
グラスに酒を注ぎながら、マスターが意地の悪い顔になった。
言いたいことはわかっている。
ここは、俺とヒロインの指定席。
何も考えずに座ってしまったが、未練がましいと思われているんだろう。
未練がないと言ったら嘘になるが、どうも他人に弱みを見せられない俺は、何でもない振りをして、それを鼻で笑い飛ばした。
「つい癖でね」
ふっと格好をつけて笑い、出された酒を一息に呷った。
「本当にお前ら素直じゃないねぇ」
マスターから発せられた『お前ら』という一言に、俺の耳が過剰に反応した。
飲み干したグラスをテーブルに置き、ゆっくりと顔を上げる。
しかし、マスターの視線は俺の遥か後方に向いていた。
まさかという期待。
俺はゆっくりと振り返った。
早鐘を打つ心臓。
干上がる喉。
しかしその人の名は、戸惑うことなく俺の口から心地よい響きとともに零れた。
「ヒロイン…」
最後にこの名を呼んだのはいつだったろう。
それはずっと昔のことのようで、しかし少しも色褪せていなかった。
「レノ…」
戸惑っているような、うれしいような複雑な表情を浮かべて、ヒロインが俺の名を呼んだ。
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仕事が終わる時間に、いつものように『彼女』から電話がかかる。
ただのペアリングが、俺の全てを縛り付けている。
そんな状態にうざったさを感じ、『彼女』には残業だと嘘をついて、俺は夜の街に繰り出した。
もちろん、指輪は外したまま。
久しぶりの一人の夜。
指輪がないだけで、妙に軽い気持ちになっていることに気付く。
開放的な気分になりながら、俺はよくヒロインと行ったバーに向かった。
いないとわかっていたが、少しだけヒロインに会えるのではという期待を抱きながら。
「よぉレノ、久しぶりだな」
店に入ると、顔馴染みのマスターがにやにや笑いながら話し掛けてきた。
「なぁに笑ってるんだ、と」
不自然な様子のマスターに苦笑しながら、俺はカウンターに座った。
「やっぱりそこに座るんだな」
グラスに酒を注ぎながら、マスターが意地の悪い顔になった。
言いたいことはわかっている。
ここは、俺とヒロインの指定席。
何も考えずに座ってしまったが、未練がましいと思われているんだろう。
未練がないと言ったら嘘になるが、どうも他人に弱みを見せられない俺は、何でもない振りをして、それを鼻で笑い飛ばした。
「つい癖でね」
ふっと格好をつけて笑い、出された酒を一息に呷った。
「本当にお前ら素直じゃないねぇ」
マスターから発せられた『お前ら』という一言に、俺の耳が過剰に反応した。
飲み干したグラスをテーブルに置き、ゆっくりと顔を上げる。
しかし、マスターの視線は俺の遥か後方に向いていた。
まさかという期待。
俺はゆっくりと振り返った。
早鐘を打つ心臓。
干上がる喉。
しかしその人の名は、戸惑うことなく俺の口から心地よい響きとともに零れた。
「ヒロイン…」
最後にこの名を呼んだのはいつだったろう。
それはずっと昔のことのようで、しかし少しも色褪せていなかった。
「レノ…」
戸惑っているような、うれしいような複雑な表情を浮かべて、ヒロインが俺の名を呼んだ。
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