「ただいま、と……？」





　――おかえり。





　いつも自分を迎えてくれるヒロインの姿はそこになかった。




　ヒロインの声が返ってくるものと思っていたレノは拍子抜けする。




「ヒロインー。ケーキ買ってきたぞ、と」



　声を張り上げてみたが返答はなかった。




　いつもと違う自宅の様子に首を傾げたレノは、電気すら点いていないことに気付く。



「ヒロイン？」




　もう一度呼んでみるが、やはり返事はなかった。





　確かに感じる人の気配。




　ヒロインに何かあったのではないかと不安が過る。




　逸る気持ちを必死で抑え、レノは靴を素早く脱ぐと、物音を立てずに静かにフローリングの床を歩いた。




　そして、玄関とリビングを仕切るドアのノブに手を掛ける。




　ごくっと一度唾を飲み、レノはゆっくりとドアを前に押した。



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