最上と茂夫

かわいいと言われると微妙な気持ちになる。してる時ならまだ分かるけど、終わった後に言われるのはロマンチックすぎる気がする。これが女の子なら嬉しいんだろうか。今日なんて、腹筋のみぞに溜まったアレを拭いてる時にも言われた。
「かわいくないと思いますよ」
事実ぼくは筋肉を褒められた方が嬉しいんですよ。学生の時ならまだ女の子みたいに細かったし、やろうと思えば女装できた。それが男だとバレないくらいではあったけど。でも、もう、若い子から見るとおじさんって言っていい歳なのだ。だからかわいいは無理があるんですよ。
そう言うと最上さんは、はん、と鼻を歪めて笑って、太陽は西からは昇らん、となぞなぞみたいなことを言う。
「バカボンですか?」「違う」「じゃあ何」「普遍の真理」「うへんのしんい」「惜しい」「うへんのにんい」「離れたぞ」そもそも、うへんが何だか分からない。右辺だろうか。最上さんは話を続ける気はないらしく、汗まみれの僕の背中を舐め始める。汚いですよ、と背中を反らして止めても、当然やめてくれなかった。くすぐったくて笑った。右辺の真意は検索しても分からなかった。
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