夢小説 狗巻棘
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灰色の空から冷たい雨が降っている。路地裏の細い屋根では心許なく、着ているコートの前を開いて狗巻を内に入れると熱っぽい視線がこちらを見上げた。硬いものを私の腿に押し付け、甘ったるい声色で彼は私の名前を呼んだ。媚びるようなそれは純粋にかわいいと思えない。罰するように股間を揉み込むと、狗巻は伸びをするように背を反らした。同時にびゅ、びゅ、と精が布越しに弾けたのがわかる。出し切れるように手のひらでそれを上下に撫でると、狗巻は絶頂の余韻に震えた。触るたびに下着の中からくちゅくちゅと水音が鳴った。
私が来るまでに何度出したのかは分からないが、荒い息を整える狗巻のそれは依然と硬度を保ったまま天をついている。厚い制服越しでもわかるくらいだ。元気いっぱいだな、と声をかけると、ふぐ、と顎の下の生き物は情けなく鼻を鳴らした。
「おざまらない、ぐるじい」
枯れたダミ声で言うので呆れる。
「かわいこぶんのやめろ、アレの残穢吸ったらそうなるだろ」
放たれた精を潤滑剤にして扱く。よだれと嬌声を垂れ流す唇を自分のもので塞ぎ、唾液をふくませた舌を狗巻のそれと絡めた。反転なんて使えるわけもないが、呪霊の残穢なら私の体液で無効化できるだろう。
狗巻の術式までつぶさないよう、呪力を抑えながら慎重に舌をすすった。急所を蹂躙されている当の狗巻といえば、私の首に腕を回し、必死に肉厚の舌を伸ばしている。彼の口腔にこびりついた残穢はひどい味だ。腐った生モノを雑巾で拭いたらこんな感じになるのでは?狗巻に似つかわしくない、気色の悪い味に眉をひそめながら、ひとかけらひとかけらを舐めとっていく。びくびくと跳ねる腰を固定し、膝を股に割り込ませて玉を潰すと筋肉質な腰が再び反り、くたりと弛緩した。これが痛くねえのか、と舌の消毒の合間で尋ねると、もっとして、と狗巻は吐息だけで言った。そして股間の膨らみを私の膝にかくかくと押し付ける。
当たり前だがいつもはこんな風じゃない。早漏は前からだが、こんな風に矜持を捨てた真似はしない。発情しきった間抜け面を憎々しげに眺める。どこの誰から生じたのかも分からない、呪霊の残りカスごときが目の前の後輩を辱めている。
繁華街の一室に閉じ込められていた呪霊群は色情魔じみた言葉を繰り返していた。3大欲求から生じた呪霊はおしなべてしぶとい。個々の力が強い代わりに、群れにまで増殖することは通常はあり得ないが、その手の系列の店で保護され、結果こうなったらしい。特性に合った環境下で生きのいい栄養を与えられ、肥大化し、分裂を繰り返したのだろうとの窓の調べだ。店の経営陣が呪詛師まがいのグループとも繋がりがあるとのことで、1級任務としてお鉢が回ってきた。系列店が多かったため、1級〜2級とでオーナーを捕まえて情報を吐かせ、同時進行で本店・支店らで保護している呪霊を祓っていった。オーナーは潔かった。口を割らせるよりも先に、呪霊の居場所と呪詛師グループの素性のデータをよこした。仲間を売った行為自体は褒められたことではないのだろうが、賢い選択だと思う。社会で生きていきたいのなら、敵に回してはいけないのは呪詛師ではなく高専組織だ。
本店での処理を片付けて支店のひとつに応援へ向かうと、班員の1人から「呪霊を祓った術師と連絡がとれない」という報告を受けた。群れからはぐれた呪霊が路地へ逃げ込み、それを追ってからの行方がわからないのだという。最後の連絡ではぐれ自体は祓ったとメッセージを受けたのですが、その後の合流地点に姿が見えず電話も繋がりません、と班員は青い顔で言った。背後では支店が燃えている。店長が火をつけて逃げたらしい。
「違法な薬物も仲介していたみたいで、証拠隠滅でしょう」
「中に人は」
「いません。表向きは18時開店になってます」
日中は薬を捌き、夕方から夜にかけては風俗店として稼ぐ。ボロい商売である。店で保管していた薬物は放火魔店長が持ち去ったらしい。薬そのものも呪霊の影響で作用が変質している可能性が高いので、売りに出されるとまずい。班員には警察と消防への引き継ぎをお願いした。「店長と術師は私の方でも探してみます。2人の格好を教えてください」班員の表情がさらに硬くなるのが分かった。低い雲からぽつぽつと雨が降り始めていた。
雨足を避けるように、奥まった路地の軒先で狗巻はうずくまっていた。目に見える外傷はなかったが様子がおかしかった。近くに男が倒れており、男のリュックからビニールでパックされた白い粉が覗いていた。ビニールに破損はなかった。狗巻の目にも薬物をキメた人間特有の怪しさはない。念のためコレを吸ったかと尋ねるが案の定首を横に振られる。こいつに何かされたか、と男を指差すが、狗巻は否定した。周囲を確認すると祓い後に残る黒ずんだ粉塵が広く散らかっている。頭上では配管の入り組んだコンクリートの壁、3メートルほどの高さまで粉塵が付着しており、焦げたような異臭が鼻をついた。路地の曲がり角に面した位置がもっとも臭いが強い。「出会い頭に爆ぜろで吸い込んだ?」狗巻は震える舌を出して頷いた。呪印が黒くすす汚れていた。
男を縛り上げ、班員に安否連絡を入れる。天気が幸いし鎮火作業は落ち着いたらしい。聴取がひと段落ついたため現場は監督に引き継ぎ、術師は高専行きの車に乗るという。迎えは断った。店長を引き渡してから自分たちでゆっくり戻るので、警官を寄越してほしい、と伝えて電話を切る。場所は表通りのチェーン店を指定した。一帯は飲み屋を兼ねた法的グレーな店が立ち並んでおり交通規制の難しい地域だ。呪霊を始末した時点で早々に帳は解除され、日が落ちた今ではパトカーが巡回している。紺色の公務員が来るのに10分もかからなかった。
路地に戻ると狗巻はゴミ箱の陰に隠れるように身をよじった。名前を呼ぶと濡れた瞳をこちらに向けて、口の動きだけでおかえりと言う。コンクリに寄りかかって立つ彼は、発見当初よりは落ち着いたと見えたが、表に出られる状態にはまだ遠い。汗の浮いた額を拭ってやると彼は熱っぽい息を吐いた。「離れとこうか」集中したいだろ。自分で思うよりも平坦な声が出てしまったので、誤魔化すように口端の蛇の目を撫でる。狗巻は私の問いにかぶりを振って、私の指に唇を寄せ、ちゅ、と指先を吸いながら、私の腰を引き寄せる。「おが……か」欲に濡れた掠れ声が咳き込みながら言った。下方のテントを服の上から握るとぐちゅりと卑猥な音が立つ。腰を突き出すようにして白い腕が私の首に抱きついた。制服のズボンをくつろげて、ぐちゃぐちゃのそれを解放してやると「ごんぶ、高菜、おかが……」こんなとこでするの?不安そうに、それでいてほのかに期待するように狗巻が言った。匂い立つような色香に頭が熱くなった。端的に言うとムカついた。赤い思考を冷やしたくて狗巻を視界に入れないよう、あたりを見渡す。灰色の空に治安の悪い風俗街。派手なネオンが輝く通りでは酔っ払いが騒いでいて、中にはこちらの様子を伺う質の悪い人間もいた。輩に中指を立てて追い払い、印を結んで小さな帷を下ろす。それでも気がおさまらなかったので、雨と気温を理由に狗巻をコートの内へ隠した。
件の術師が学生だったことについては後日補助監督より申し送りがあった。もともと依頼していた術師に取り急ぎの任が入り、補充として学生を派遣したこと、年齢を考慮するとこの任務には不適切だったかもしれず、また直前のメンバー変更について事後報告となってしまったのは自分の不徳の致すところである、とのことだ。報告が早めに欲しかったのは事実だが、窓や公的機関との連携まで請け負う監督の激務を思うとやるせかった。「でも、お前からはひと言あってもいいだろ」裏すじのふくらみを下から上になぞると竿がひくりと跳ねる。「しゃ、げ、めんだいご、おが、か……っ」時間なかった、と途切れ途切れに狗巻が言う。「当日に呼び出しくったらそうなるか」カリ首に二指を引っかけて固定し、尿道口を親指でにちにちと刺激する。母音を細く伸ばしながら、狗巻は私の胸に頭をすりつけて喘いだ。
もとより人員配置は監督の仕事であって、一介の術師がそれに口を出すのは越権だ。任務の割り振りについても年齢を考慮できるような余裕のある業界ではない。狗巻から直前に連絡をもらったところで、私ができることはいくつかの注意事項を念入りするくらいだろうか。任務実行を終えた今では後の祭りである。
「……もう反省会くらいしかできないけどよ」
「ん、ん……あっ……はあ、あ」
「近距離で爆ぜろはやめとけ。低級なら早いけど、そこそこのやつだと残穢が飛び散って今みてーになる。止まれとかでいい」
「んん、ふ……じゃ、けっ、しゃげ、んっ」
「つーかはぐれ追っかけるにしても単体相手なら他の術師がやればいいだろ。群れ相手にメインで祓ったのお前だろ?何でそっちまで処理すんだよ」
「おれ、ごうはい……だしっ、んっ……あし、じしんある、し……ふ、あ」
「先輩を敬う態度は結構だが、それで呪力切らしてちゃ意味ねー。あと術師は大概みんな足は速い」
「あ、先っぽ、きもちっ……い、ぐっ、いぐっら、あっ、ああっ、あっ……ふ、う……」
「帷下りてるし後から追いかけようかーってのんびりならないのは偉いぜ。店長経由で大通りにでも出たら最悪だ。でも追いかけるのは他に任せていいって話」
「ひ、かわ、ひっぱら、ないっで、……あっん、そこ、そんなじなっい、で、あっああ、ひっ、あ」
「後衛型はレアなんだ。呪言なら対人でも応用が効く。現に地下の女の子達落ち着かせたのもお前だよな?任務の始まりから終わりまで、班のうしろで班全体を支えててほしいのがお前だ」
「また、ぐるっ、ん、ひっ、くる、いぐ、いっぐ、ふ、んっんんん……」
「だから単独で呪霊追いかけるなんて冗談じゃねえよ。適材適所もクソもねえ」
「も、いまいっだ、がらっ、ちょっ、まっで、あっ、あっ、あっ、ぞれ、やめっあっ、へんっ、へんなるっ、くるじいっ、がらっ、あーっあ、ああ」
「てか女の子達見たんなら尚更お前が1人でいくのはやばいって分かんだろ。呪霊の好みと丸被ってんだよ。実際さっきやばかったじゃん。はたから見たらまじで変態だったぞ」
「もっ、へんだいっでいいっがらっ、んんんっ、てぇいやだっ、たりなっ、いっ、ああ、あ、いれ、だいっ、なか、いれだ、いっ、なかがいいっ、なかっだしたっい、ん、ふ、ださせてっ、ださせてぇ……」
「まあ今もそんな変わんねえけど」
私の胸に顔をうずめ、腿にどろどろの陰茎をすり付ける狗巻は正しく色狂いだ。術師相手に残穢でこの威力なら、SMクラブ地下にいた被害者達がどんな有様だったのか想像するのは容易い。直視した狗巻は少なからずダメージを受けただろう。予想外の火事まで起こり、話にはなかった薬物売買という背景まで加わったことで現場は混乱に陥ったはずだ。支店の術師を率いていたのは私とも面識が薄い若いリーダーだった。一級の彼と準級に上がったばかりの狗巻、そして直前のメンバー変更となれば最低限のコミュニケーションしか取れなかったのかもしれない。慣れないメンバーにゴア指定の被害者達、逃走した店長とはぐれ。混沌とした現場の中で気が動転した狗巻がとった行動は無理もない。呪力切れ寸前で店長とはぐれ両方とバッティングしてしまえば、呪霊相手に思わず強い呪言を使ってしまったのも理解できる。もちろんこれは憶測に過ぎないが、今の段階で狗巻に十分な事実確認を行うことはできない。
「せっぐすっがいい、っせっぐ、すぅ、っんん、ん、せ、っくず、で、だしったいっ、はあっ、これっ、たりなっい……ふともも、ぱんぱんっ、するの、きもぢぃ……っん、んっ、んっ、んっ、だすっ、でるっ、んっ、はっ、あっ、でてる、ふ、ああっ」
なんせこの有り様である。言うことなすことめちゃくちゃだ。
「……最初に見つけたのが私で良かったな、お前」
股の間でとろける陰茎を掴み、狗巻の前に膝をつく。射精直後のそれはひと回りサイズダウンしていた。皮の中に舌を差し入れ、くるりと舌先を回して剥いてやる。「ひ、」期待するように小さな尿道口がくぱ、と開いたり閉じたりを繰り返し、たらりと蜜をこぼした。蒸れたそこにはあ、と息を吐くと狗巻は食い入るような目で私を見た。
「ごんぶ、高菜、おかが……」
こんなところで?再度狗巻が言った。言葉とは裏腹に細い腰が揺れている。「はっ」失笑だった。なーにがこんなとこで、だ。カマトトしてんじゃねえ。
「こんなとこでオナってたのはお前だろうが」
カリ首を指の輪で磨きながら吐き捨てるように言う。
「上の階の奴、何人か覗いてたぞ」
快楽にうかされた瞳が一瞬で正気の色を帯び、私の顔を両手で隠して、がばりと上を見上げた。人の心配してる場合かよ。つか嘘だって分かれよ、最初に見つけたの私だってさっき言ったばっかじゃん。内心で突っ込み、竿をねっとりと舐め上げる。
「15分口でやって、それでもダメならお前をホテルに連れて行く」
上を見上げていた狗巻がものすごい勢いで私の方に頭を向けた。本人の顔はいまだ蒼白だが、むくむくと怒張するムスコは正直者といえよう。本人と股間とのギャップに嗜虐心が首をもたげた。
「受付でデリヘル呼ぶかな」
「…………えっ」
「露出狂とはしたくねえ」
こぼれるばかりの瞳にじわりと水の膜が張る。
「嫌なら死ぬ気で出し切れ」
そのままムスコを飲み込み、敏感な先端を喉で締め付けた。どくりどくりと口の中のものが大きく脈打ち、食道にあたたかな熱が飛び散るのが分かった。
ごめんなさい、もうこんなところでオナニーしません、1人で班を離れません。約束するから許して。半狂乱の狗巻の鳴き声は解読するとこんな感じである。
黙って陰茎を打ち付けられていると尻ポケットの携帯が振動した。支店チームの若いリーダーからのメッセージだった。根本まで飲み込んでいた頭をずろろ、とスライドさせ亀頭をしゃぶる。ぱんぱんに膨れたそこを舌先でいじくってお茶を濁し、狗巻の尻横に画面を掲げてメッセージを確認した。私への謝罪と狗巻を気遣う文面、また同じリーダークラスにも関わらず先に失礼して申し訳ないという内容だった。几帳面に改行したメッセージだった。とっつきにくそうな細面がしょげた様子が思い浮かんだ。
今回の任務での自分の反省を鑑み、頭のなかでそれを書き連ね、全て消し、狗巻本人は変わらず元気であること、これから寄り道をして帰るので遅くなるが心配しないでいただきたいという旨を簡潔に伝えた。最後に飲みの約束を取り付けて携帯をしまう。面識の少ないリーダー同士の反省はなるべく対面で行いたかった。その方が仲良くなれるし、本音が聞けていいと考えている。
1分にも満たない即レス応酬のなかで、目を引くメッセージがひとつあった。大変な任務だったが死者が出なかったのは全員が頑張ってくれた成果である、というものだ。良いリーダーだと思った。私のように反省点を見つけて次はああしろもっとこうしろ、とケチをつける奴は山のようにいるが、美点を見つけてかつそれを伝えられる指導者は稀だ。消火と報告にあたっていた班員もそうだが、メンバー全員が頑張ってくれた。スマートな任務運びとは言えずとも、結果は被害者を含め死者はゼロ。1級以上の任務のなかで、これは珍しいことだ。
なかでも奮闘してくれたのは目の前の少年だろう。10回以上出しているにもかかわらず衰えを見せない陰茎を奥まで咥え直し、狗巻を見上げる。泣きそうな葡萄色とうっかり目が合う。狗巻は私の髪をかき混ぜ、か細い声で言った。さっきの冗談だよね。冗談だって、言って、言ってよ。すがるようなそれがあまりにもアレだったので、ややむせ、慌てて目を逸らす。動揺を隠したくてわざと狗巻の睾丸を乱暴に弾くと、狗巻はまたすすり泣き、のけ反り、すぐに半身を倒して私を覆い隠した。極小の帷をはりなおしたにも関わらず、無人の廃ビル上方からの視線を気にする狗巻は滑稽でいとおしい。自覚のないうつくしさは罪だが、自分の大事な人間が不特定多数の目に触れる危険なら、理解できているようだ。
狗巻の美点はどこだろう。心のまるさと無垢さだろうか。そんなこいつにデリバリーヘルスは言い過ぎたかもしれない、とほんの少しだけ思い直す。上に乗るだけで勘弁してやるか、とか、そうは言っても今のこいつにはご褒美にしかならないのでは、とか、でも事実狗巻は頑張った訳なのだから、とか考えるうちに、いつの間にか心は凪いでいた。デリヘルの刑はジョークだ、と伝えたかったが、口の塞がれている身ではしようがなかった。
謝罪と私の名前を繰り返す呪言師の悲痛な叫びは、雨と室外機の音につぶされ、帷の外では人々が思い思いの日常を楽しんでいる。墨色の雲は東へ流れ、そそぐ雨足はおさまりつつある。夜半には星空がのぞくだろう。
私が来るまでに何度出したのかは分からないが、荒い息を整える狗巻のそれは依然と硬度を保ったまま天をついている。厚い制服越しでもわかるくらいだ。元気いっぱいだな、と声をかけると、ふぐ、と顎の下の生き物は情けなく鼻を鳴らした。
「おざまらない、ぐるじい」
枯れたダミ声で言うので呆れる。
「かわいこぶんのやめろ、アレの残穢吸ったらそうなるだろ」
放たれた精を潤滑剤にして扱く。よだれと嬌声を垂れ流す唇を自分のもので塞ぎ、唾液をふくませた舌を狗巻のそれと絡めた。反転なんて使えるわけもないが、呪霊の残穢なら私の体液で無効化できるだろう。
狗巻の術式までつぶさないよう、呪力を抑えながら慎重に舌をすすった。急所を蹂躙されている当の狗巻といえば、私の首に腕を回し、必死に肉厚の舌を伸ばしている。彼の口腔にこびりついた残穢はひどい味だ。腐った生モノを雑巾で拭いたらこんな感じになるのでは?狗巻に似つかわしくない、気色の悪い味に眉をひそめながら、ひとかけらひとかけらを舐めとっていく。びくびくと跳ねる腰を固定し、膝を股に割り込ませて玉を潰すと筋肉質な腰が再び反り、くたりと弛緩した。これが痛くねえのか、と舌の消毒の合間で尋ねると、もっとして、と狗巻は吐息だけで言った。そして股間の膨らみを私の膝にかくかくと押し付ける。
当たり前だがいつもはこんな風じゃない。早漏は前からだが、こんな風に矜持を捨てた真似はしない。発情しきった間抜け面を憎々しげに眺める。どこの誰から生じたのかも分からない、呪霊の残りカスごときが目の前の後輩を辱めている。
繁華街の一室に閉じ込められていた呪霊群は色情魔じみた言葉を繰り返していた。3大欲求から生じた呪霊はおしなべてしぶとい。個々の力が強い代わりに、群れにまで増殖することは通常はあり得ないが、その手の系列の店で保護され、結果こうなったらしい。特性に合った環境下で生きのいい栄養を与えられ、肥大化し、分裂を繰り返したのだろうとの窓の調べだ。店の経営陣が呪詛師まがいのグループとも繋がりがあるとのことで、1級任務としてお鉢が回ってきた。系列店が多かったため、1級〜2級とでオーナーを捕まえて情報を吐かせ、同時進行で本店・支店らで保護している呪霊を祓っていった。オーナーは潔かった。口を割らせるよりも先に、呪霊の居場所と呪詛師グループの素性のデータをよこした。仲間を売った行為自体は褒められたことではないのだろうが、賢い選択だと思う。社会で生きていきたいのなら、敵に回してはいけないのは呪詛師ではなく高専組織だ。
本店での処理を片付けて支店のひとつに応援へ向かうと、班員の1人から「呪霊を祓った術師と連絡がとれない」という報告を受けた。群れからはぐれた呪霊が路地へ逃げ込み、それを追ってからの行方がわからないのだという。最後の連絡ではぐれ自体は祓ったとメッセージを受けたのですが、その後の合流地点に姿が見えず電話も繋がりません、と班員は青い顔で言った。背後では支店が燃えている。店長が火をつけて逃げたらしい。
「違法な薬物も仲介していたみたいで、証拠隠滅でしょう」
「中に人は」
「いません。表向きは18時開店になってます」
日中は薬を捌き、夕方から夜にかけては風俗店として稼ぐ。ボロい商売である。店で保管していた薬物は放火魔店長が持ち去ったらしい。薬そのものも呪霊の影響で作用が変質している可能性が高いので、売りに出されるとまずい。班員には警察と消防への引き継ぎをお願いした。「店長と術師は私の方でも探してみます。2人の格好を教えてください」班員の表情がさらに硬くなるのが分かった。低い雲からぽつぽつと雨が降り始めていた。
雨足を避けるように、奥まった路地の軒先で狗巻はうずくまっていた。目に見える外傷はなかったが様子がおかしかった。近くに男が倒れており、男のリュックからビニールでパックされた白い粉が覗いていた。ビニールに破損はなかった。狗巻の目にも薬物をキメた人間特有の怪しさはない。念のためコレを吸ったかと尋ねるが案の定首を横に振られる。こいつに何かされたか、と男を指差すが、狗巻は否定した。周囲を確認すると祓い後に残る黒ずんだ粉塵が広く散らかっている。頭上では配管の入り組んだコンクリートの壁、3メートルほどの高さまで粉塵が付着しており、焦げたような異臭が鼻をついた。路地の曲がり角に面した位置がもっとも臭いが強い。「出会い頭に爆ぜろで吸い込んだ?」狗巻は震える舌を出して頷いた。呪印が黒くすす汚れていた。
男を縛り上げ、班員に安否連絡を入れる。天気が幸いし鎮火作業は落ち着いたらしい。聴取がひと段落ついたため現場は監督に引き継ぎ、術師は高専行きの車に乗るという。迎えは断った。店長を引き渡してから自分たちでゆっくり戻るので、警官を寄越してほしい、と伝えて電話を切る。場所は表通りのチェーン店を指定した。一帯は飲み屋を兼ねた法的グレーな店が立ち並んでおり交通規制の難しい地域だ。呪霊を始末した時点で早々に帳は解除され、日が落ちた今ではパトカーが巡回している。紺色の公務員が来るのに10分もかからなかった。
路地に戻ると狗巻はゴミ箱の陰に隠れるように身をよじった。名前を呼ぶと濡れた瞳をこちらに向けて、口の動きだけでおかえりと言う。コンクリに寄りかかって立つ彼は、発見当初よりは落ち着いたと見えたが、表に出られる状態にはまだ遠い。汗の浮いた額を拭ってやると彼は熱っぽい息を吐いた。「離れとこうか」集中したいだろ。自分で思うよりも平坦な声が出てしまったので、誤魔化すように口端の蛇の目を撫でる。狗巻は私の問いにかぶりを振って、私の指に唇を寄せ、ちゅ、と指先を吸いながら、私の腰を引き寄せる。「おが……か」欲に濡れた掠れ声が咳き込みながら言った。下方のテントを服の上から握るとぐちゅりと卑猥な音が立つ。腰を突き出すようにして白い腕が私の首に抱きついた。制服のズボンをくつろげて、ぐちゃぐちゃのそれを解放してやると「ごんぶ、高菜、おかが……」こんなとこでするの?不安そうに、それでいてほのかに期待するように狗巻が言った。匂い立つような色香に頭が熱くなった。端的に言うとムカついた。赤い思考を冷やしたくて狗巻を視界に入れないよう、あたりを見渡す。灰色の空に治安の悪い風俗街。派手なネオンが輝く通りでは酔っ払いが騒いでいて、中にはこちらの様子を伺う質の悪い人間もいた。輩に中指を立てて追い払い、印を結んで小さな帷を下ろす。それでも気がおさまらなかったので、雨と気温を理由に狗巻をコートの内へ隠した。
件の術師が学生だったことについては後日補助監督より申し送りがあった。もともと依頼していた術師に取り急ぎの任が入り、補充として学生を派遣したこと、年齢を考慮するとこの任務には不適切だったかもしれず、また直前のメンバー変更について事後報告となってしまったのは自分の不徳の致すところである、とのことだ。報告が早めに欲しかったのは事実だが、窓や公的機関との連携まで請け負う監督の激務を思うとやるせかった。「でも、お前からはひと言あってもいいだろ」裏すじのふくらみを下から上になぞると竿がひくりと跳ねる。「しゃ、げ、めんだいご、おが、か……っ」時間なかった、と途切れ途切れに狗巻が言う。「当日に呼び出しくったらそうなるか」カリ首に二指を引っかけて固定し、尿道口を親指でにちにちと刺激する。母音を細く伸ばしながら、狗巻は私の胸に頭をすりつけて喘いだ。
もとより人員配置は監督の仕事であって、一介の術師がそれに口を出すのは越権だ。任務の割り振りについても年齢を考慮できるような余裕のある業界ではない。狗巻から直前に連絡をもらったところで、私ができることはいくつかの注意事項を念入りするくらいだろうか。任務実行を終えた今では後の祭りである。
「……もう反省会くらいしかできないけどよ」
「ん、ん……あっ……はあ、あ」
「近距離で爆ぜろはやめとけ。低級なら早いけど、そこそこのやつだと残穢が飛び散って今みてーになる。止まれとかでいい」
「んん、ふ……じゃ、けっ、しゃげ、んっ」
「つーかはぐれ追っかけるにしても単体相手なら他の術師がやればいいだろ。群れ相手にメインで祓ったのお前だろ?何でそっちまで処理すんだよ」
「おれ、ごうはい……だしっ、んっ……あし、じしんある、し……ふ、あ」
「先輩を敬う態度は結構だが、それで呪力切らしてちゃ意味ねー。あと術師は大概みんな足は速い」
「あ、先っぽ、きもちっ……い、ぐっ、いぐっら、あっ、ああっ、あっ……ふ、う……」
「帷下りてるし後から追いかけようかーってのんびりならないのは偉いぜ。店長経由で大通りにでも出たら最悪だ。でも追いかけるのは他に任せていいって話」
「ひ、かわ、ひっぱら、ないっで、……あっん、そこ、そんなじなっい、で、あっああ、ひっ、あ」
「後衛型はレアなんだ。呪言なら対人でも応用が効く。現に地下の女の子達落ち着かせたのもお前だよな?任務の始まりから終わりまで、班のうしろで班全体を支えててほしいのがお前だ」
「また、ぐるっ、ん、ひっ、くる、いぐ、いっぐ、ふ、んっんんん……」
「だから単独で呪霊追いかけるなんて冗談じゃねえよ。適材適所もクソもねえ」
「も、いまいっだ、がらっ、ちょっ、まっで、あっ、あっ、あっ、ぞれ、やめっあっ、へんっ、へんなるっ、くるじいっ、がらっ、あーっあ、ああ」
「てか女の子達見たんなら尚更お前が1人でいくのはやばいって分かんだろ。呪霊の好みと丸被ってんだよ。実際さっきやばかったじゃん。はたから見たらまじで変態だったぞ」
「もっ、へんだいっでいいっがらっ、んんんっ、てぇいやだっ、たりなっ、いっ、ああ、あ、いれ、だいっ、なか、いれだ、いっ、なかがいいっ、なかっだしたっい、ん、ふ、ださせてっ、ださせてぇ……」
「まあ今もそんな変わんねえけど」
私の胸に顔をうずめ、腿にどろどろの陰茎をすり付ける狗巻は正しく色狂いだ。術師相手に残穢でこの威力なら、SMクラブ地下にいた被害者達がどんな有様だったのか想像するのは容易い。直視した狗巻は少なからずダメージを受けただろう。予想外の火事まで起こり、話にはなかった薬物売買という背景まで加わったことで現場は混乱に陥ったはずだ。支店の術師を率いていたのは私とも面識が薄い若いリーダーだった。一級の彼と準級に上がったばかりの狗巻、そして直前のメンバー変更となれば最低限のコミュニケーションしか取れなかったのかもしれない。慣れないメンバーにゴア指定の被害者達、逃走した店長とはぐれ。混沌とした現場の中で気が動転した狗巻がとった行動は無理もない。呪力切れ寸前で店長とはぐれ両方とバッティングしてしまえば、呪霊相手に思わず強い呪言を使ってしまったのも理解できる。もちろんこれは憶測に過ぎないが、今の段階で狗巻に十分な事実確認を行うことはできない。
「せっぐすっがいい、っせっぐ、すぅ、っんん、ん、せ、っくず、で、だしったいっ、はあっ、これっ、たりなっい……ふともも、ぱんぱんっ、するの、きもぢぃ……っん、んっ、んっ、んっ、だすっ、でるっ、んっ、はっ、あっ、でてる、ふ、ああっ」
なんせこの有り様である。言うことなすことめちゃくちゃだ。
「……最初に見つけたのが私で良かったな、お前」
股の間でとろける陰茎を掴み、狗巻の前に膝をつく。射精直後のそれはひと回りサイズダウンしていた。皮の中に舌を差し入れ、くるりと舌先を回して剥いてやる。「ひ、」期待するように小さな尿道口がくぱ、と開いたり閉じたりを繰り返し、たらりと蜜をこぼした。蒸れたそこにはあ、と息を吐くと狗巻は食い入るような目で私を見た。
「ごんぶ、高菜、おかが……」
こんなところで?再度狗巻が言った。言葉とは裏腹に細い腰が揺れている。「はっ」失笑だった。なーにがこんなとこで、だ。カマトトしてんじゃねえ。
「こんなとこでオナってたのはお前だろうが」
カリ首を指の輪で磨きながら吐き捨てるように言う。
「上の階の奴、何人か覗いてたぞ」
快楽にうかされた瞳が一瞬で正気の色を帯び、私の顔を両手で隠して、がばりと上を見上げた。人の心配してる場合かよ。つか嘘だって分かれよ、最初に見つけたの私だってさっき言ったばっかじゃん。内心で突っ込み、竿をねっとりと舐め上げる。
「15分口でやって、それでもダメならお前をホテルに連れて行く」
上を見上げていた狗巻がものすごい勢いで私の方に頭を向けた。本人の顔はいまだ蒼白だが、むくむくと怒張するムスコは正直者といえよう。本人と股間とのギャップに嗜虐心が首をもたげた。
「受付でデリヘル呼ぶかな」
「…………えっ」
「露出狂とはしたくねえ」
こぼれるばかりの瞳にじわりと水の膜が張る。
「嫌なら死ぬ気で出し切れ」
そのままムスコを飲み込み、敏感な先端を喉で締め付けた。どくりどくりと口の中のものが大きく脈打ち、食道にあたたかな熱が飛び散るのが分かった。
ごめんなさい、もうこんなところでオナニーしません、1人で班を離れません。約束するから許して。半狂乱の狗巻の鳴き声は解読するとこんな感じである。
黙って陰茎を打ち付けられていると尻ポケットの携帯が振動した。支店チームの若いリーダーからのメッセージだった。根本まで飲み込んでいた頭をずろろ、とスライドさせ亀頭をしゃぶる。ぱんぱんに膨れたそこを舌先でいじくってお茶を濁し、狗巻の尻横に画面を掲げてメッセージを確認した。私への謝罪と狗巻を気遣う文面、また同じリーダークラスにも関わらず先に失礼して申し訳ないという内容だった。几帳面に改行したメッセージだった。とっつきにくそうな細面がしょげた様子が思い浮かんだ。
今回の任務での自分の反省を鑑み、頭のなかでそれを書き連ね、全て消し、狗巻本人は変わらず元気であること、これから寄り道をして帰るので遅くなるが心配しないでいただきたいという旨を簡潔に伝えた。最後に飲みの約束を取り付けて携帯をしまう。面識の少ないリーダー同士の反省はなるべく対面で行いたかった。その方が仲良くなれるし、本音が聞けていいと考えている。
1分にも満たない即レス応酬のなかで、目を引くメッセージがひとつあった。大変な任務だったが死者が出なかったのは全員が頑張ってくれた成果である、というものだ。良いリーダーだと思った。私のように反省点を見つけて次はああしろもっとこうしろ、とケチをつける奴は山のようにいるが、美点を見つけてかつそれを伝えられる指導者は稀だ。消火と報告にあたっていた班員もそうだが、メンバー全員が頑張ってくれた。スマートな任務運びとは言えずとも、結果は被害者を含め死者はゼロ。1級以上の任務のなかで、これは珍しいことだ。
なかでも奮闘してくれたのは目の前の少年だろう。10回以上出しているにもかかわらず衰えを見せない陰茎を奥まで咥え直し、狗巻を見上げる。泣きそうな葡萄色とうっかり目が合う。狗巻は私の髪をかき混ぜ、か細い声で言った。さっきの冗談だよね。冗談だって、言って、言ってよ。すがるようなそれがあまりにもアレだったので、ややむせ、慌てて目を逸らす。動揺を隠したくてわざと狗巻の睾丸を乱暴に弾くと、狗巻はまたすすり泣き、のけ反り、すぐに半身を倒して私を覆い隠した。極小の帷をはりなおしたにも関わらず、無人の廃ビル上方からの視線を気にする狗巻は滑稽でいとおしい。自覚のないうつくしさは罪だが、自分の大事な人間が不特定多数の目に触れる危険なら、理解できているようだ。
狗巻の美点はどこだろう。心のまるさと無垢さだろうか。そんなこいつにデリバリーヘルスは言い過ぎたかもしれない、とほんの少しだけ思い直す。上に乗るだけで勘弁してやるか、とか、そうは言っても今のこいつにはご褒美にしかならないのでは、とか、でも事実狗巻は頑張った訳なのだから、とか考えるうちに、いつの間にか心は凪いでいた。デリヘルの刑はジョークだ、と伝えたかったが、口の塞がれている身ではしようがなかった。
謝罪と私の名前を繰り返す呪言師の悲痛な叫びは、雨と室外機の音につぶされ、帷の外では人々が思い思いの日常を楽しんでいる。墨色の雲は東へ流れ、そそぐ雨足はおさまりつつある。夜半には星空がのぞくだろう。