夢小説 狗巻棘
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戦った呪詛師の一人がすごかった。そこにいる、と視認した次の瞬間にはいなくなる。こっちの攻撃は当たらず、踊るような動きに翻弄されるうちにいつの間にかまずい位置に誘導されてしまうのだ。狐に化かされたってああいうことを言うんだろう。素早い割に戦いにくそうなひらひらした布を被ってたから、そういう呪具だったのかもしれない。考えを口にすると、あの羽衣にそこまでの効果はない、とその人は言った。忌庫に一個同じのあるけど3級以下のガラクタだ、純粋にあいつが器用だったんだろ。救急箱を開けながら横顔が淡々と言った。家入先生は今日は夜勤だった。日が暮れたばかりの保健室にはまだ誰もいなかったけれど、消毒だけでもしとけってことで目の前の人の手当を受けている。
大きな手が綿棒を消毒液につけるさまを眺めながら考える。その人の呪詛師に対する評価が俺にはいまいち理解できなかった。まばたきするうちに自分と相手の位置を入れ替えるというのは器用のレベルを超えていると思う。まだそういう術式って言われた方が信じられる。
京都校の一個上を思い浮かべながら、パイナップル? と尋ねると、あんな術式持ちならケチな泥棒なんてしない、と否定された。あれは注意をそらしてたんだよ、マジックで使う手口だけど、お前も3年になったら習うぞ。それなら俺でも同じことできるかな? 近いことならできるんじゃねお前だし。近いことかあー。脱力して頭を垂れる。すると、動くなよ、と長い指が俺の顎を正面に向かせて固定した。茶色い綿棒が俺の頬から耳上にかけてに押し当てられる。傷にびりびりと痛みが走った。
刺激に目を閉じて耐えていると、できないでいいんだよあんなの、とぽつりと声が言った。あの女は上に目をつけられたんだ、見逃してやるにも限界がある、もう半年ももたねえだろう。綿棒を持つ手が握りしめられるのが分かった。窓のブラインドが保健室に縞模様の影を落としていた。サーカス団でも入って、逃げられるうちに国外にでも逃げとけばよかったのに。呟くその人の表情も影になっていて見えない。オレンジ色の暗がりのなかで、堪えるような声が念を押すみたいにまた呟く。手遅れにならないうちに、逃げた方がいい。分かるだろ、狗巻。お前なら、分かってくれると信じてるぜ。
大きな手が綿棒を消毒液につけるさまを眺めながら考える。その人の呪詛師に対する評価が俺にはいまいち理解できなかった。まばたきするうちに自分と相手の位置を入れ替えるというのは器用のレベルを超えていると思う。まだそういう術式って言われた方が信じられる。
京都校の一個上を思い浮かべながら、パイナップル? と尋ねると、あんな術式持ちならケチな泥棒なんてしない、と否定された。あれは注意をそらしてたんだよ、マジックで使う手口だけど、お前も3年になったら習うぞ。それなら俺でも同じことできるかな? 近いことならできるんじゃねお前だし。近いことかあー。脱力して頭を垂れる。すると、動くなよ、と長い指が俺の顎を正面に向かせて固定した。茶色い綿棒が俺の頬から耳上にかけてに押し当てられる。傷にびりびりと痛みが走った。
刺激に目を閉じて耐えていると、できないでいいんだよあんなの、とぽつりと声が言った。あの女は上に目をつけられたんだ、見逃してやるにも限界がある、もう半年ももたねえだろう。綿棒を持つ手が握りしめられるのが分かった。窓のブラインドが保健室に縞模様の影を落としていた。サーカス団でも入って、逃げられるうちに国外にでも逃げとけばよかったのに。呟くその人の表情も影になっていて見えない。オレンジ色の暗がりのなかで、堪えるような声が念を押すみたいにまた呟く。手遅れにならないうちに、逃げた方がいい。分かるだろ、狗巻。お前なら、分かってくれると信じてるぜ。