夢小説 狗巻棘
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狗巻を見てるとこいつ普通の女抱けんのかなと思う。普通の女っていうのは血生臭くない女で、高専の汚れ仕事とは無縁の女。血生臭くないってことは、呪術師じゃなくてもいいだろう。てゆーか呪術師じゃない方がいい。
そんで普通の体格してて、腕を目いっぱい突っ張って腰だけへこへこしないでも満足に抱ける女の子。
「おっ、んっ、ん、ぉっ、ぁぅっ」
母音の多いうめき声をあげる狗巻のピストン運動は動物じみている。狗巻が腰を振るうたびにちっさい睾丸がバチバチと私の尻に当たり、へっへっとだらしなく開いた口から赤い舌が見え隠れした。
股を締め付けてやるたびに「ほぉ……っ」と喘ぐ狗巻の、形のいい口から伸びる舌。蛇の目と牙が刻まれたそこは、目にした生命体にとって反射的に警戒を抱かせるものだというのに、今ではいかにも馬鹿らしく、やってることがやってることなだけあって、まるで発情期の犬だ。
「あーっ、いく、んっ、だすっ、ああっ、んああああ……」
かくかくと揺れる腰が一層深みをうがち、狗巻は上体を軽くのけぞらせた。腹の中のそれが小刻みに震えている。最後まで出し切れるように小さな尻に足をかけて前後に揺らしてやると「ああ、ぁ、あー……」と狗巻は酩酊した人間のごとく天井を見上げて息を吐いた。開けっぱの口から、濡れた舌が軽く突き出ていて、天を仰ぐ銀髪と一緒に、照明に照らされて煌めいている。狗巻が呼吸するたびに白い体が大きく上下した。麗しい見た目と遠慮のないイキ方はいつ見てもアンバランスだ。腹の底がざわつく。
「ああ、はあ、はっ…………ふっ、ふっ、ふう……」
荒く息をつく狗巻は私の上にぺったりと横たわった。呪印の刻まれた舌を惜しげもなく晒したまま。
汗だくの狗巻の腹と胸が密着して暑い。股のものは抜けていて、そこだけが寒かった。
裸の胸つたいに、狗巻の心臓がドクドクと動いている。だんだんと調子を取り戻していく心音とともに、小さな体の震えもおさまっていった。
湿った髪をかき分けると白い額が見えた。玉のような肌に胸がしめつけられる。動揺を誤魔化したくて、髪の生え際に鼻先を押しつけた。
人間の濡れた頭皮は嫌な匂いがするが、狗巻のものを不快と感じたことはない。
乱れた髪を撫でつけていると、狗巻がゆっくりと顔を上げた。
銀髪に劣らない、うつくしい色合いの瞳が覗く。
「しゃけ、こんぶ」
自分だけごめん。夢醒めやらぬといった表情で狗巻は言った。
「気にすんな」
返事をしながら、他に気にすべきところはたくさんあるよと思う。AVでも見ないレベルの喘ぎ声だったり、成人向け漫画のような大げさなイキ方であったり。普通の女の子が相手なら驚かれてしまうだろう。
「おかか……ツナ」
私の内心の突っ込みをよそに、狗巻はきもちよかった、とほうっと息をつく。そしてベッド上で背伸びするみたいにして私の鼻の根元にすりすりと自分の鼻を擦り付けた。しっとりした横髪がさらさらと顔の上を滑った。くすぐったくて目をすがめる。髪を耳にかけてやる。
いつの間にか腹の上にぺたんと座っていた狗巻は、私の両頬に手を添えて口付けた。ちゅ、ちゅ、ちゅる、ちゅ、と絡んだ舌が静かな水音を立てた。
狗巻の伏せられた瞳は穏やかで、ああ戻ったな、と思う。行為が終わってすっきりすれば、いつもの狗巻だった。
舌の呪印の凹凸を丸くなぞると長いまつ毛がふるりと揺れた。「んぅ……」鼻から息を漏らす狗巻の声はとても甘いが控えめだ。常と変わらないさまに安心する。うなじの剃り込みを手のひらで撫ぜると、狗巻はうっとりした様子で頭を傾けた。
終わりを告げたのはスマホの着信音だった。ピピピピ、と機械的に連絡を告げるそれは補助監督からのものだ。やわらかな舌が名残惜しそうに離れる。
要件は近場の呪詛師の回収だった。身支度を整える私を、シーツを被った狗巻がぼうっと眺めた。男にしては余韻が長い奴だと思う。
タクシー代を渡すとおかかを連呼された。
「任務帰りで疲れただろ」
「すじこぉ」
「んじゃ次奢って」
何の気なしに口にした「次」になんだかな、と心がかげるけれど、狗巻は納得してくれた。「しゃけっ」と抱きついてくる狗巻を適当にあしらって、ホテルを後にする。
扉を閉める直前に見た狗巻はベッドの上で膝を抱えて微笑んでいた。口パクで「気、を、つ、け、て」と音のない言葉を並べる奴は汚れのない人間に見えて、行為中とのギャップがやるせなかった。
後輩の狗巻と一線を超えたのは春の暖かい日のことだった。
主張先で酒をたらふく飲んだ私は、高専敷地内の自宅へ戻ったまではいいが、途中で会った狗巻を家に連れ込んで犯したらしい。らしい、というのは記憶が飛んでて状況から推測するしかなかったことを意味する。もうなんか最悪なんだけど、とにかく起きたら私は裸で、横には下着姿の高1の狗巻が寝ていた。
謝り倒す私に狗巻は顔を赤らめるばかりで、それがまた絶望的だった。狗巻が以前から好意を寄せてくれていたことは知ってたから。どうやって責任を取ればいいのか分からなかった。純正な戸籍のない私は高専以外に行き場がなく、警察に出頭すれば後見人の五条先生だったり、様々な偽造を手伝ってくれた補助監督の伊地知さんだったりまでしょっぴかれる恐れがある。
強姦の慰謝料相場を調べる私に、スマホを覗いた狗巻は驚愕していた。焦ったように私の手からスマホを抜き取り、細い指でGoogleバーにタタタと文字を入れる。ズイと掲げられた画面にはこうあった。『強姦じゃない』
「大人が子どもに手を出したらそれは強姦なんだ」
顔を覆ってうめく。狗巻は風を切るほどの勢いでぶんぶん首を降り、またタタタと文字を打った。顔を覆う私の指をちょいとはずして画面を見せてくる。
『抵抗してない』
顔を上げると狗巻は微笑んでいた。困り顔で。ああ、と私は絶望する。
「こんなデカい女に抵抗とかできないよ怖くて」
『怖くない 全然嫌じゃなかった』
「そう言われると救われる。ありがとう」
『救われた顔じゃない』
嫌じゃなかった、と話してくれたことで多少心は軽くなったが、それでも落ち込んだ。自分が子どもに手を出したという事実が重かった。
高校生が子どもという年齢かは分からないにしろ、私にとって狗巻は紛れもなく子どもだった。というのも狗巻とは彼が小学生の頃からの仲だ。夏休みの課題で私は呪物のレポートを選択し、蔵の閲覧許可を出してくれたのが狗巻家だった。
だから狗巻と聞くと高校生の今の姿より、縁側で菓子を頬張っていた子ども時代のイメージが強い。寂しがりでかわいい子どもだった狗巻。
「お前の親御さんに合わせる顔がない。謝ったところでどうにもなんないけど、本当にごめん」
床に手をついて頭を下げる。裸で土下座する私は不憫だったのだろう。狗巻は慌ててベッドから降りると私に上着をかけてくれた。そのまま私を立たせるとベッドに座らせてくれる。ぎこちない手が私の背中をぽんぽんとたたいた。狗巻の優しさは性犯罪者にも注がれるらしい。
ありがとう、と鼻をすする。
「お前にそうしてもらう資格はないけど、ありがとう狗巻」
「……おかか」
気まずそうに狗巻は言った。自分を襲った女がめちゃくちゃ落ち込んでるから身の置き所が分からなくなったんだろう。心なしか顔色も悪かった。
「こんぶ……高菜、しゃけ?」
どうしたら元気でる? と狗巻は問うた。元気は当分出そうにないが、被害者である狗巻にこれ以上気を遣わせるのもおかしい。できるだけ平易な声で私は答えた。
「こんなこと言える立場じゃないけど、償わせてくれたらちょっとは気が晴れる、かも。お前がいいならだけど……近寄ってほしくなかったらなるべく避け「それはまじでおかか」
私の言葉に狗巻は拒否を被せる。
「んじゃ任務代わってとか、金くれとか、何でも言ってくれ」
「おかか……」
「奴隷みたいに使ってくれたらいい。お前がしてほしいこと何でもする」
「………………」
今度は狗巻が顔を覆った。長い沈黙のあと、くぐもった声で明日はオフかと聞かれる。時計は午後23時を指していた。
「出張明けだし、休みだよ」
明日なんか頼みたいことでもあんのか?
言いかけた言葉は発せられないまま口を塞がれた。ゆっくりと押し倒される。青かった顔は赤くなっていて、カラフルな奴だなと場違いなことを考えた。状況が読み込めない私の耳元で狗巻は手渡すようにささやいた。
「おかか、高菜」
嫌だったら、逃げて。
そこから先はあまり覚えていない。思い出すと胸が詰まる。狗巻はひとつひとつのことに、ほとんど初めてといっていい反応を示していたから、酔った自分は一方的にことを進めたのだと推測できた。
眠りにつく寸前、狗巻はずっとこうなりたかった、とつぶやいた。私のことが心から好きだと少ない語彙で言葉を尽くし、きっかけは間違えたかもしれないけどこれからもこうしていたい、と口と口が触れ合いそうな距離で言った。「わかった」と返すと葡萄色の瞳が細まり、頬が熟れた桃色に染めあがった。休んだら、またしたい。狗巻はそううそぶいて、恥ずかしそうな顔を私の胸に埋めて隠した。
寝息をたてる狗巻の髪を撫でる。やわらかく、しかし昔と比べると硬い髪。触っていると少しずつ吐き気がおさまる気がした。考えることは一つだ。
自分は残酷な間違いを犯して、償い方も誤った。なら次はどうするか。
一度誓ったことはくつがえらないとして、こいつまで間違いに引き込む必要はない。はずれた道を軌道修正させたい。
なるべく狗巻の望みは叶えつつ、傷つかない感じで送り出す。こいつにふさわしい、輝かしい普通の未来へ。
小さな頭を抱きしめて決意した。
「どこに出しても恥ずかしくない、立派な男にしてやる」
そんで普通の体格してて、腕を目いっぱい突っ張って腰だけへこへこしないでも満足に抱ける女の子。
「おっ、んっ、ん、ぉっ、ぁぅっ」
母音の多いうめき声をあげる狗巻のピストン運動は動物じみている。狗巻が腰を振るうたびにちっさい睾丸がバチバチと私の尻に当たり、へっへっとだらしなく開いた口から赤い舌が見え隠れした。
股を締め付けてやるたびに「ほぉ……っ」と喘ぐ狗巻の、形のいい口から伸びる舌。蛇の目と牙が刻まれたそこは、目にした生命体にとって反射的に警戒を抱かせるものだというのに、今ではいかにも馬鹿らしく、やってることがやってることなだけあって、まるで発情期の犬だ。
「あーっ、いく、んっ、だすっ、ああっ、んああああ……」
かくかくと揺れる腰が一層深みをうがち、狗巻は上体を軽くのけぞらせた。腹の中のそれが小刻みに震えている。最後まで出し切れるように小さな尻に足をかけて前後に揺らしてやると「ああ、ぁ、あー……」と狗巻は酩酊した人間のごとく天井を見上げて息を吐いた。開けっぱの口から、濡れた舌が軽く突き出ていて、天を仰ぐ銀髪と一緒に、照明に照らされて煌めいている。狗巻が呼吸するたびに白い体が大きく上下した。麗しい見た目と遠慮のないイキ方はいつ見てもアンバランスだ。腹の底がざわつく。
「ああ、はあ、はっ…………ふっ、ふっ、ふう……」
荒く息をつく狗巻は私の上にぺったりと横たわった。呪印の刻まれた舌を惜しげもなく晒したまま。
汗だくの狗巻の腹と胸が密着して暑い。股のものは抜けていて、そこだけが寒かった。
裸の胸つたいに、狗巻の心臓がドクドクと動いている。だんだんと調子を取り戻していく心音とともに、小さな体の震えもおさまっていった。
湿った髪をかき分けると白い額が見えた。玉のような肌に胸がしめつけられる。動揺を誤魔化したくて、髪の生え際に鼻先を押しつけた。
人間の濡れた頭皮は嫌な匂いがするが、狗巻のものを不快と感じたことはない。
乱れた髪を撫でつけていると、狗巻がゆっくりと顔を上げた。
銀髪に劣らない、うつくしい色合いの瞳が覗く。
「しゃけ、こんぶ」
自分だけごめん。夢醒めやらぬといった表情で狗巻は言った。
「気にすんな」
返事をしながら、他に気にすべきところはたくさんあるよと思う。AVでも見ないレベルの喘ぎ声だったり、成人向け漫画のような大げさなイキ方であったり。普通の女の子が相手なら驚かれてしまうだろう。
「おかか……ツナ」
私の内心の突っ込みをよそに、狗巻はきもちよかった、とほうっと息をつく。そしてベッド上で背伸びするみたいにして私の鼻の根元にすりすりと自分の鼻を擦り付けた。しっとりした横髪がさらさらと顔の上を滑った。くすぐったくて目をすがめる。髪を耳にかけてやる。
いつの間にか腹の上にぺたんと座っていた狗巻は、私の両頬に手を添えて口付けた。ちゅ、ちゅ、ちゅる、ちゅ、と絡んだ舌が静かな水音を立てた。
狗巻の伏せられた瞳は穏やかで、ああ戻ったな、と思う。行為が終わってすっきりすれば、いつもの狗巻だった。
舌の呪印の凹凸を丸くなぞると長いまつ毛がふるりと揺れた。「んぅ……」鼻から息を漏らす狗巻の声はとても甘いが控えめだ。常と変わらないさまに安心する。うなじの剃り込みを手のひらで撫ぜると、狗巻はうっとりした様子で頭を傾けた。
終わりを告げたのはスマホの着信音だった。ピピピピ、と機械的に連絡を告げるそれは補助監督からのものだ。やわらかな舌が名残惜しそうに離れる。
要件は近場の呪詛師の回収だった。身支度を整える私を、シーツを被った狗巻がぼうっと眺めた。男にしては余韻が長い奴だと思う。
タクシー代を渡すとおかかを連呼された。
「任務帰りで疲れただろ」
「すじこぉ」
「んじゃ次奢って」
何の気なしに口にした「次」になんだかな、と心がかげるけれど、狗巻は納得してくれた。「しゃけっ」と抱きついてくる狗巻を適当にあしらって、ホテルを後にする。
扉を閉める直前に見た狗巻はベッドの上で膝を抱えて微笑んでいた。口パクで「気、を、つ、け、て」と音のない言葉を並べる奴は汚れのない人間に見えて、行為中とのギャップがやるせなかった。
後輩の狗巻と一線を超えたのは春の暖かい日のことだった。
主張先で酒をたらふく飲んだ私は、高専敷地内の自宅へ戻ったまではいいが、途中で会った狗巻を家に連れ込んで犯したらしい。らしい、というのは記憶が飛んでて状況から推測するしかなかったことを意味する。もうなんか最悪なんだけど、とにかく起きたら私は裸で、横には下着姿の高1の狗巻が寝ていた。
謝り倒す私に狗巻は顔を赤らめるばかりで、それがまた絶望的だった。狗巻が以前から好意を寄せてくれていたことは知ってたから。どうやって責任を取ればいいのか分からなかった。純正な戸籍のない私は高専以外に行き場がなく、警察に出頭すれば後見人の五条先生だったり、様々な偽造を手伝ってくれた補助監督の伊地知さんだったりまでしょっぴかれる恐れがある。
強姦の慰謝料相場を調べる私に、スマホを覗いた狗巻は驚愕していた。焦ったように私の手からスマホを抜き取り、細い指でGoogleバーにタタタと文字を入れる。ズイと掲げられた画面にはこうあった。『強姦じゃない』
「大人が子どもに手を出したらそれは強姦なんだ」
顔を覆ってうめく。狗巻は風を切るほどの勢いでぶんぶん首を降り、またタタタと文字を打った。顔を覆う私の指をちょいとはずして画面を見せてくる。
『抵抗してない』
顔を上げると狗巻は微笑んでいた。困り顔で。ああ、と私は絶望する。
「こんなデカい女に抵抗とかできないよ怖くて」
『怖くない 全然嫌じゃなかった』
「そう言われると救われる。ありがとう」
『救われた顔じゃない』
嫌じゃなかった、と話してくれたことで多少心は軽くなったが、それでも落ち込んだ。自分が子どもに手を出したという事実が重かった。
高校生が子どもという年齢かは分からないにしろ、私にとって狗巻は紛れもなく子どもだった。というのも狗巻とは彼が小学生の頃からの仲だ。夏休みの課題で私は呪物のレポートを選択し、蔵の閲覧許可を出してくれたのが狗巻家だった。
だから狗巻と聞くと高校生の今の姿より、縁側で菓子を頬張っていた子ども時代のイメージが強い。寂しがりでかわいい子どもだった狗巻。
「お前の親御さんに合わせる顔がない。謝ったところでどうにもなんないけど、本当にごめん」
床に手をついて頭を下げる。裸で土下座する私は不憫だったのだろう。狗巻は慌ててベッドから降りると私に上着をかけてくれた。そのまま私を立たせるとベッドに座らせてくれる。ぎこちない手が私の背中をぽんぽんとたたいた。狗巻の優しさは性犯罪者にも注がれるらしい。
ありがとう、と鼻をすする。
「お前にそうしてもらう資格はないけど、ありがとう狗巻」
「……おかか」
気まずそうに狗巻は言った。自分を襲った女がめちゃくちゃ落ち込んでるから身の置き所が分からなくなったんだろう。心なしか顔色も悪かった。
「こんぶ……高菜、しゃけ?」
どうしたら元気でる? と狗巻は問うた。元気は当分出そうにないが、被害者である狗巻にこれ以上気を遣わせるのもおかしい。できるだけ平易な声で私は答えた。
「こんなこと言える立場じゃないけど、償わせてくれたらちょっとは気が晴れる、かも。お前がいいならだけど……近寄ってほしくなかったらなるべく避け「それはまじでおかか」
私の言葉に狗巻は拒否を被せる。
「んじゃ任務代わってとか、金くれとか、何でも言ってくれ」
「おかか……」
「奴隷みたいに使ってくれたらいい。お前がしてほしいこと何でもする」
「………………」
今度は狗巻が顔を覆った。長い沈黙のあと、くぐもった声で明日はオフかと聞かれる。時計は午後23時を指していた。
「出張明けだし、休みだよ」
明日なんか頼みたいことでもあんのか?
言いかけた言葉は発せられないまま口を塞がれた。ゆっくりと押し倒される。青かった顔は赤くなっていて、カラフルな奴だなと場違いなことを考えた。状況が読み込めない私の耳元で狗巻は手渡すようにささやいた。
「おかか、高菜」
嫌だったら、逃げて。
そこから先はあまり覚えていない。思い出すと胸が詰まる。狗巻はひとつひとつのことに、ほとんど初めてといっていい反応を示していたから、酔った自分は一方的にことを進めたのだと推測できた。
眠りにつく寸前、狗巻はずっとこうなりたかった、とつぶやいた。私のことが心から好きだと少ない語彙で言葉を尽くし、きっかけは間違えたかもしれないけどこれからもこうしていたい、と口と口が触れ合いそうな距離で言った。「わかった」と返すと葡萄色の瞳が細まり、頬が熟れた桃色に染めあがった。休んだら、またしたい。狗巻はそううそぶいて、恥ずかしそうな顔を私の胸に埋めて隠した。
寝息をたてる狗巻の髪を撫でる。やわらかく、しかし昔と比べると硬い髪。触っていると少しずつ吐き気がおさまる気がした。考えることは一つだ。
自分は残酷な間違いを犯して、償い方も誤った。なら次はどうするか。
一度誓ったことはくつがえらないとして、こいつまで間違いに引き込む必要はない。はずれた道を軌道修正させたい。
なるべく狗巻の望みは叶えつつ、傷つかない感じで送り出す。こいつにふさわしい、輝かしい普通の未来へ。
小さな頭を抱きしめて決意した。
「どこに出しても恥ずかしくない、立派な男にしてやる」