夢小説 狗巻棘
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追ってた呪詛師が屋内に逃げ込んだ。5階立ての真新しいビルだが、中がやけに暗くて表示には社名がない。他の建物と連絡通路があるようにも見えなかった。どうせ後ろ暗い系列だろう。構わず堂々とフロントから入ると、野球中継を見ていた窓口の爺さんが胡乱げな顔で言う。あんたここが何か分かってんのかい?若い娘さんが来るところじゃないよ。しわがれた声は警戒というより面倒くさそうな響きがあった。うちで問題を起こした者を連れて帰りたいだけです、と高専の術師証明を見せながら伝える。爺さんはハア?という顔をしたが、金を握らせると黙ってテレビに向き直った。
1階は暗いといっても入り口から外界の光が入ってくる。それと比べると2階は更に暗かった。仕切りで区切られた通路が細く続いており、くねくねと曲がりくねる。迷路のような構造だった。すえた臭いが充満していた。警戒しながら先へ進むとそこかしこで人間のうめき声が聞こえてくる。恍惚とした様子で床に伸びている野郎もいた。ヤクのパーティでもしているのだろうか?と私は推測するが、闇に目が慣れ、顔ぶれを確認するうちに焦りが生まれる。いや、これは、まさか。嫌な予感を胸に足を早める。道の突き当たりでは簡易ベッドがいくつか置いてあり、裸のおっさん達がベロチューしていた。なんとなく予想はしてたが実際に目にすると圧倒される。しかしどのような場所だろうが私は呪詛師を探し出して連行する必要があるのだ。おっさん達の顔を遠巻きに確認していると、そのうちの1人、組み敷かれていた髭面の長髪がこちらに気付いた。眉をひそめながら私をまじまじと見つめている。やべえと思いゆっくりと後退すると後ろの何かとぶつかってしまった。見れば熊を連想するほど体格のいい男である。ちょうど迷路から出てきたところだろう。キャッと声を上げてよろけた男はうるうるとした目で私を見上げたあと、すぐに表情を変え、裸の胸を両手で隠してギャーと野太い声をあげた。階中に響き渡るような強烈な悲鳴だった。行為に夢中になっていた他の奴らが一斉にこちらを向く。「ツレが迷い込んでしまって」「父を探しています」「業者の者です」様々な言い訳が頭を巡るがギャーが伝染する方が早い。最悪だった。早いとこ見つけてずらかろう、そう考えながら全力で奥の階段を登った。
件の呪詛師は3階の大部屋にいた。屈強な男達のまぐわいの隅で震えていた。私を見つけるやいなやもんどりを打つように飛び込んでくる。知らなかったんです同僚がここはいいところだから何かあれば匿ってもらえばいいと言ってたから来ただけで僕はここがどういう場所か知らなかったんです。狂ったように話し続ける彼の衣服は乱れていた。シャツは袖が破けており、ベルトは抜き取られているのか下衣が落ちないようひょこひょこと動く。気の毒だが呪詛師のPTSDをおもんばかる余裕はなかった。2階の騒ぎが大きくなってきていたからだ。大部屋連中も何事かとざわめきが広がりつつある。せめてもと呪詛師に上着を被せると彼は静かに口をつぐんだ。さっさと出るぞこんなとこ。言いながら手を引いてやる。事態を招いた張本人は顔を覆って嗚咽した。
すぐに外に出たかったが2階にくだろうとする私を呪詛師は引き留める。もうちょっと下がおさまってから行きましょうよ。はあー? 何言ってんださっさと出た方がいいに決まってんじゃん。でもあなた女性だしぼくこんなだし今2階行ったら何されるか分かんないですよ。2階から1階への階段にたどり着くためにはベロチューのおっさん達の脇を通り、迷路を抜ける必要がある。だから呪詛師の言い分は理解できた。長居した方が面倒くせえことにならねえか? とも思ったが、肝心の呪詛師がマナーモードよろしくぶるぶるしていて動けそうにない。もうちょっとだけ静かになってから行きましょ、ねえお願い、お願いしますったらあ。踊り場で足を八の字に突っ張り彼はひきつり笑いを浮かべた。問答を繰り返していると2階から人の気配が登ってくる。絶対いましたあれは女だった、こんなとこ女が入るわけねーじゃん見間違いだって、ホラ吹いて気ぃ引きたいだけじゃねえのあんた、そんなことしなくても良くしてやんのによ、それにしてもいい尻だなへへえ。呪詛師の肩がぴゃっと跳ね、階段を駆け上がる。彼を追い4階に上がった。
4階はアパートのように個室が並んでいた。すべて使用中だった。防犯目的なのか鍵がかからない造りになっており、開け放たれた扉から熱い息遣いが聞こえてくる。地獄のような心地だった。個室を突っ切った先の角で呪詛師と身を潜めた。するとまたもや階下から大きな悲鳴が聞こえた。といっても私の時とは違い、なぜか黄色い感じのギャーだ。階段方面を伺うと入り口で見張りをしているはずの後輩が決死の形相で走っていた。「狗巻!」隅っこに匿って話を聞く。私が遅いので心配になり入ってきてしまったらしい。「フロントの爺さんは止めなかったのか!?」「おがかおかが、めんだいごすじご……」なんか言ってたけど眠らせてしまった、としゅんとして狗巻は言った。屋内に入ってから弱い呪言を数回使ったが、一般人相手に連発は避けたく、また喉薬も使い切ったため逃げていたらしい。ひそひそ話をしているうちに色めきたった黄色い声が迫ってくる気配がした。どやどやと個室を物色する彼らがここに行き着くのは時間の問題だろう。狗巻は通夜のような顔をしていた。そしておもむろに立ち上がると廊下に出ようとする。どうするつもりだ、と手を掴むと、眠らせる、と彼は咳き込んで言った。足音からして相当数の人間がいた。それも全員ギラギラに覚醒している。狗巻の喉の負担を思うと現実的な案には思えなかった。なのに対する狗巻の目は据わっている。無理でも囮くらいできる。私の思考を読んだように、狗巻はそう言って私の手をするりと抜けた。狗巻自身が狙われているのに囮も何もないと思った。
追い込まれた頭で、もう全員殴って気絶させるか? と考える。これは一般人への暴力行為にあたるのだろうか? 正当防衛として高専は処理してくれるか? そしてその場合の処分は私1人が受けるだけで済むのだろうか。
呪詛師は横でうずくまり、泣いている。尻を押さえながら言う。
「もう死にたい」
馬鹿みたいだが切実だ。
ギリギリに張り詰めた思考がぷっつりと千切れる。
「全員脱げ」
狗巻と呪詛師が怪訝な顔でこちらを向いた。
「はやくしろ!」
服を脱ぎ捨てて怒鳴った。
裸でやってる振りをしてハッテンに紛れるという選択は結果として上手くいった。(裸といっても私は呪詛師のトランクスを履いた。体型隠しである)名付けて木を隠すなら森の中作戦だ。具体的に言うと、見つかってはいけない狗巻を隅に追い込んで隠し、泣いて騒がしい呪詛師は胸に埋めて間に置く。そして狗巻ごと壁ドンの姿勢で抱きしめた。壁から数えて狗巻→呪詛師→私の並びだ。通路から忍び寄る輩達を入れると狗巻→呪詛師→私→輩である。暗闇のなか、ひんひん泣いてる呪詛師の声もあいまり、私達の様子は後ろから見れば3pで盛り上がってる風に見えなくもない。奥の狗巻の顔をしつこく確認してこようとする奴もいたが、2階の連中に負けないくらい狗巻にベロチューして隠した。狗巻はこの作戦に終始抵抗しており、おかかおかかと暴れてうるさったので丁度良かった。
何本かの腕が混ぜろという感じできわどい場所をまさぐってきたが、強く押しのけたらそれ以上は来なかった。もともと相手には困らない環境だ。望みのものが得られないと分かれば深追いする意味はない。彼らは好みのフロアに帰ったり、つられて通路で3pし始めたりと各々で楽しみ始めた。落ち着きを取り戻しつつある雰囲気のなか、殴らないでよかった、と私はほっとした。場所の特性を解さずに踏み込んだのは私達の方だったから。呪詛師は自業自得であり、私と狗巻は場違いな部外者だ。
人が少なくなるのを待って外へ出た。朝日が昇ろうとしていた。早朝の澄み切った空気が心地よかった。やばかったけどなんとかなったな、と伸びをする。ガタイが良くて助かったわ、普通ならバレてやられてたかもしんねえ、まあハッテン場でそれはねえかワハハ。仕事を終えた開放感もあり晴れ晴れとした気持ちだった。頭の後ろで腕を組み、終わった終わったと笑う。するとちょんちょんと肩をつつかれる。振り返ると呪詛師が眉を下げて口の前で人差し指を立てていた。えー何と思うが横の狗巻を見て把握する。でかい目がぎりぎりと吊り上がり、ずもも、と効果音が聞こえそうになるくらい狗巻の呪力が立ち上っていた。先ほどまでカラカラだったはずの狗巻の呪力が。反射的にまずいと思った。助けに来てくれてありがとうなーいぬまきなーと猫撫で声を出すと、何笑ってんだよ、と言われた。地を這うような声だった。もう冷や汗しか出ない。あんなカッコさせて悪かったってェとか、怖い思いさせてごめんなとか、オロオロしながら謝るけど、狗巻は「おかか!」とわめいた。違う! という意味のおかかだと解釈するが、何が違うのか分からない。何に怒ってんだよ、ヘマしたのは認めるけどよーこいつ回収できたし結果オーライだろトゲェ。ひらやかな声をつくって言う。狗巻は拳を握りしめ、わなわなと震えた。手を伸ばすと真っ赤な顔で「触るな!」と振り払われる。私に向けられる呪いは私に届いた時点で無効化され、術式はほどかれる。「……触らせるな」それでも狗巻は強制力のない呪いを重ねた。泣きそうな顔だった。遠のく背中を呆然と見つめる。横で見物していた呪詛師はあーあと息を吐いた。うちのもあんな風になったことあるけど、早いとこ好物食わせるとか機嫌とった方がいいですよ、年下の嫁もらうと大変ですよね。やれやれといった調子で言う、そいつの首を締め上げる。元はと言えばてめーのせいだぞ!
1階は暗いといっても入り口から外界の光が入ってくる。それと比べると2階は更に暗かった。仕切りで区切られた通路が細く続いており、くねくねと曲がりくねる。迷路のような構造だった。すえた臭いが充満していた。警戒しながら先へ進むとそこかしこで人間のうめき声が聞こえてくる。恍惚とした様子で床に伸びている野郎もいた。ヤクのパーティでもしているのだろうか?と私は推測するが、闇に目が慣れ、顔ぶれを確認するうちに焦りが生まれる。いや、これは、まさか。嫌な予感を胸に足を早める。道の突き当たりでは簡易ベッドがいくつか置いてあり、裸のおっさん達がベロチューしていた。なんとなく予想はしてたが実際に目にすると圧倒される。しかしどのような場所だろうが私は呪詛師を探し出して連行する必要があるのだ。おっさん達の顔を遠巻きに確認していると、そのうちの1人、組み敷かれていた髭面の長髪がこちらに気付いた。眉をひそめながら私をまじまじと見つめている。やべえと思いゆっくりと後退すると後ろの何かとぶつかってしまった。見れば熊を連想するほど体格のいい男である。ちょうど迷路から出てきたところだろう。キャッと声を上げてよろけた男はうるうるとした目で私を見上げたあと、すぐに表情を変え、裸の胸を両手で隠してギャーと野太い声をあげた。階中に響き渡るような強烈な悲鳴だった。行為に夢中になっていた他の奴らが一斉にこちらを向く。「ツレが迷い込んでしまって」「父を探しています」「業者の者です」様々な言い訳が頭を巡るがギャーが伝染する方が早い。最悪だった。早いとこ見つけてずらかろう、そう考えながら全力で奥の階段を登った。
件の呪詛師は3階の大部屋にいた。屈強な男達のまぐわいの隅で震えていた。私を見つけるやいなやもんどりを打つように飛び込んでくる。知らなかったんです同僚がここはいいところだから何かあれば匿ってもらえばいいと言ってたから来ただけで僕はここがどういう場所か知らなかったんです。狂ったように話し続ける彼の衣服は乱れていた。シャツは袖が破けており、ベルトは抜き取られているのか下衣が落ちないようひょこひょこと動く。気の毒だが呪詛師のPTSDをおもんばかる余裕はなかった。2階の騒ぎが大きくなってきていたからだ。大部屋連中も何事かとざわめきが広がりつつある。せめてもと呪詛師に上着を被せると彼は静かに口をつぐんだ。さっさと出るぞこんなとこ。言いながら手を引いてやる。事態を招いた張本人は顔を覆って嗚咽した。
すぐに外に出たかったが2階にくだろうとする私を呪詛師は引き留める。もうちょっと下がおさまってから行きましょうよ。はあー? 何言ってんださっさと出た方がいいに決まってんじゃん。でもあなた女性だしぼくこんなだし今2階行ったら何されるか分かんないですよ。2階から1階への階段にたどり着くためにはベロチューのおっさん達の脇を通り、迷路を抜ける必要がある。だから呪詛師の言い分は理解できた。長居した方が面倒くせえことにならねえか? とも思ったが、肝心の呪詛師がマナーモードよろしくぶるぶるしていて動けそうにない。もうちょっとだけ静かになってから行きましょ、ねえお願い、お願いしますったらあ。踊り場で足を八の字に突っ張り彼はひきつり笑いを浮かべた。問答を繰り返していると2階から人の気配が登ってくる。絶対いましたあれは女だった、こんなとこ女が入るわけねーじゃん見間違いだって、ホラ吹いて気ぃ引きたいだけじゃねえのあんた、そんなことしなくても良くしてやんのによ、それにしてもいい尻だなへへえ。呪詛師の肩がぴゃっと跳ね、階段を駆け上がる。彼を追い4階に上がった。
4階はアパートのように個室が並んでいた。すべて使用中だった。防犯目的なのか鍵がかからない造りになっており、開け放たれた扉から熱い息遣いが聞こえてくる。地獄のような心地だった。個室を突っ切った先の角で呪詛師と身を潜めた。するとまたもや階下から大きな悲鳴が聞こえた。といっても私の時とは違い、なぜか黄色い感じのギャーだ。階段方面を伺うと入り口で見張りをしているはずの後輩が決死の形相で走っていた。「狗巻!」隅っこに匿って話を聞く。私が遅いので心配になり入ってきてしまったらしい。「フロントの爺さんは止めなかったのか!?」「おがかおかが、めんだいごすじご……」なんか言ってたけど眠らせてしまった、としゅんとして狗巻は言った。屋内に入ってから弱い呪言を数回使ったが、一般人相手に連発は避けたく、また喉薬も使い切ったため逃げていたらしい。ひそひそ話をしているうちに色めきたった黄色い声が迫ってくる気配がした。どやどやと個室を物色する彼らがここに行き着くのは時間の問題だろう。狗巻は通夜のような顔をしていた。そしておもむろに立ち上がると廊下に出ようとする。どうするつもりだ、と手を掴むと、眠らせる、と彼は咳き込んで言った。足音からして相当数の人間がいた。それも全員ギラギラに覚醒している。狗巻の喉の負担を思うと現実的な案には思えなかった。なのに対する狗巻の目は据わっている。無理でも囮くらいできる。私の思考を読んだように、狗巻はそう言って私の手をするりと抜けた。狗巻自身が狙われているのに囮も何もないと思った。
追い込まれた頭で、もう全員殴って気絶させるか? と考える。これは一般人への暴力行為にあたるのだろうか? 正当防衛として高専は処理してくれるか? そしてその場合の処分は私1人が受けるだけで済むのだろうか。
呪詛師は横でうずくまり、泣いている。尻を押さえながら言う。
「もう死にたい」
馬鹿みたいだが切実だ。
ギリギリに張り詰めた思考がぷっつりと千切れる。
「全員脱げ」
狗巻と呪詛師が怪訝な顔でこちらを向いた。
「はやくしろ!」
服を脱ぎ捨てて怒鳴った。
裸でやってる振りをしてハッテンに紛れるという選択は結果として上手くいった。(裸といっても私は呪詛師のトランクスを履いた。体型隠しである)名付けて木を隠すなら森の中作戦だ。具体的に言うと、見つかってはいけない狗巻を隅に追い込んで隠し、泣いて騒がしい呪詛師は胸に埋めて間に置く。そして狗巻ごと壁ドンの姿勢で抱きしめた。壁から数えて狗巻→呪詛師→私の並びだ。通路から忍び寄る輩達を入れると狗巻→呪詛師→私→輩である。暗闇のなか、ひんひん泣いてる呪詛師の声もあいまり、私達の様子は後ろから見れば3pで盛り上がってる風に見えなくもない。奥の狗巻の顔をしつこく確認してこようとする奴もいたが、2階の連中に負けないくらい狗巻にベロチューして隠した。狗巻はこの作戦に終始抵抗しており、おかかおかかと暴れてうるさったので丁度良かった。
何本かの腕が混ぜろという感じできわどい場所をまさぐってきたが、強く押しのけたらそれ以上は来なかった。もともと相手には困らない環境だ。望みのものが得られないと分かれば深追いする意味はない。彼らは好みのフロアに帰ったり、つられて通路で3pし始めたりと各々で楽しみ始めた。落ち着きを取り戻しつつある雰囲気のなか、殴らないでよかった、と私はほっとした。場所の特性を解さずに踏み込んだのは私達の方だったから。呪詛師は自業自得であり、私と狗巻は場違いな部外者だ。
人が少なくなるのを待って外へ出た。朝日が昇ろうとしていた。早朝の澄み切った空気が心地よかった。やばかったけどなんとかなったな、と伸びをする。ガタイが良くて助かったわ、普通ならバレてやられてたかもしんねえ、まあハッテン場でそれはねえかワハハ。仕事を終えた開放感もあり晴れ晴れとした気持ちだった。頭の後ろで腕を組み、終わった終わったと笑う。するとちょんちょんと肩をつつかれる。振り返ると呪詛師が眉を下げて口の前で人差し指を立てていた。えー何と思うが横の狗巻を見て把握する。でかい目がぎりぎりと吊り上がり、ずもも、と効果音が聞こえそうになるくらい狗巻の呪力が立ち上っていた。先ほどまでカラカラだったはずの狗巻の呪力が。反射的にまずいと思った。助けに来てくれてありがとうなーいぬまきなーと猫撫で声を出すと、何笑ってんだよ、と言われた。地を這うような声だった。もう冷や汗しか出ない。あんなカッコさせて悪かったってェとか、怖い思いさせてごめんなとか、オロオロしながら謝るけど、狗巻は「おかか!」とわめいた。違う! という意味のおかかだと解釈するが、何が違うのか分からない。何に怒ってんだよ、ヘマしたのは認めるけどよーこいつ回収できたし結果オーライだろトゲェ。ひらやかな声をつくって言う。狗巻は拳を握りしめ、わなわなと震えた。手を伸ばすと真っ赤な顔で「触るな!」と振り払われる。私に向けられる呪いは私に届いた時点で無効化され、術式はほどかれる。「……触らせるな」それでも狗巻は強制力のない呪いを重ねた。泣きそうな顔だった。遠のく背中を呆然と見つめる。横で見物していた呪詛師はあーあと息を吐いた。うちのもあんな風になったことあるけど、早いとこ好物食わせるとか機嫌とった方がいいですよ、年下の嫁もらうと大変ですよね。やれやれといった調子で言う、そいつの首を締め上げる。元はと言えばてめーのせいだぞ!