夢小説 狗巻棘
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狗巻の髪に桜の花がついている。樹木の枝間を飛び回る呪霊だったので、追いかけっこの際についたのだろう。花びらついてる、と指摘するがよく分からないという顔をされた。滝のような雨粒がトタン屋根にしきりにぶつかり騒がしい。桜林を抜けた直後から降り続けており、最寄り駅に避難した今も雨足は激しくなるばかりだ。雨の音に負けないよう大きな声で伝える。狗巻の指が花弁をかすめるが、濡れて張り付いたそれはなかなか取れなかった。そっちじゃねえって、もうちょい右、あーちょっと左。身振りを混じえて誘導するのも面倒になり、髪奥に移動したそれを摘む。とれた、と収穫を見せ、すぐに手を引っ込める。狗巻の顔が赤かったのだ。線路沿いの紫陽花に視線をそらし、バツの悪い時間を過ごす。すると隣に立つ狗巻が何か言った。よくよく聞くと私の髪にも花がついているらしい。まじか、と頭を振る。頭髪をあちこち撫でつけるが狗巻の首は横に振られた。狗巻の手が私の耳をかすめ、頭と首のさかいに指を差し込む。取りやすいように屈んでやると指が迷うように動き、濡れた髪をすいた。花ではなく私を見つめる狗巻の顔は先ほどよりも赤い。じっと見つめ返すとよく見えないから、とたどたどしく口が動く。より距離を近づける。桃色の肌はいよいよ鮮やかなものになる。節くれた指は何度か頭皮を撫でて止まった。やがてもう一方の手が私の頬にそえられ、葡萄色の瞳が何らかの物語を孕むように熱をもって私だけを映す。古びた停留所にて。雨はまだ止みそうにない。