最上と茂夫

霊は睡眠を必要としない。しかしエネルギーを消耗した直後や、魂の整理をつける時などはまれに眠りにも似た形態をとる。「すこし閉じる」と言って壁に背をあずけた最上の、疲れをおびた様子に、そういえばそんな時期だなと茂夫は思い返していた。一階へそろそろとした足取りでくだり、客用の布団一式を手に入れ、またそろそろと階段を上がる。部屋に戻る頃には悪霊の意識はひっこんでおり、茂夫はその寝顔をしばし眺めたあと布団に寝かせた。死体同然のこの間、最上は何も話せはしないし、茂夫は彼の精神に入りこんでどこかしらにおもむくこともできない。けれど最上が確実に朝までとどまってくれるという点において茂夫はこの形態がとても好きだった。だから、できれば長い夜になってほしいな。そうぼんやりと思考しつつ、何かから覆い隠すようにして最上の黒ぐろとした頭を胸に抱きこむ。いつくしむ者、いつくしまれる者、普段とは逆転した立場のふたつをやわらかな静寂が満たしてゆく。
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