最上と茂夫

最上啓示という男はとんでもない輩だ。現実に起こったことではないにしろ、中学生の指を折って顔面に拳を叩き込むなんて道徳ある大人の振る舞いとは到底言えない。さらに半年もの月日をかけて子供を拘束し幻覚を見せ続けた所業は鬼畜の一言に尽き「これでいいきみはこれで強くなれる」などととぼけた台詞を言えるほどには歪んだ倫理観を持ち合わせている。しかし決してそれだけではないと茂夫は思う、精神世界にて映画館だと捉えていたそこがまさかのストリップ劇場で、めくるめく舞台の光景に爆死しそうになってる自分に、気付くのが遅いんじゃないかと肩をふるわせている悪霊に対して、腹立たしい・腹立たしくないは脇に置くとして、ほんの少しだけれど自分は誤解をしてたのかもしれないと 茂夫は思うのだ。確かに最上は非道徳で、鬼畜で、倫理のゆがんだ男だ。けどこんなふうに腰を折り片手で目を覆って、歯を嚙みしめ声を殺して笑うといった、人間くさいしぐさを取ることもある。だから遺伝子レベルの甘さを持つ茂夫は警戒をゆるめて、自分の身を案じる周りの人間にも、今となってはきっぱりこう答えている。最上さんは怖いだけの人じゃないからと。隣で見てるから間違いはないと。
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