最上と茂夫
最上さんが嬉しそうだ。理由を聞いたら、誕生日を他の人にも祝ってもらえたらしい。びっくりした。「僕以外に祝う人いるの? というやつか」「そ、そんなことは……」「嘘が下手なのはいいことだよ」麺を箸で掬って、ふーふーしながら最上さんは続けた。「してこのラーメンは」焦ってる僕をみかねたのか、話題が変わる。「あ、手打ちからチャレンジしました。師匠に教わって」まず小麦粉にクラシックを聴かせてですね、と身ぶりを交えて作り方を話す。最上さんはへえ、とか、ほう、とか言いながら麺を口に運んだ。厚みの不揃いな麺が、最上さんの口に消えていく。誕生日当日には会えなかったので、冷凍していた生地から作ったものだ。霊体でも食べられるように、超能力をトッピングしたけれど、味はどうだろう。「どうです?」「いけるよ」「正直いうと」「ほんとにいける」「本当かなあ……」最上さんに嘘をつかれても僕には分からない。僕と違って嘘をつくのが上手いから。試しに自分の分をひと口食べてみるけれど、ここ数週間試食を繰り返した舌には、美味しいのかどうか判断がつかなかった。しいていえば、練習よりも薄味になったかもしれない。本当に美味しいですか? という再三の確認に、美味いよ、と最上さんが麺を頬張りながら笑う。「まあでも」「なんです」「祝ってもらえるというのは、いいね」「……」「……なぜスマートフォンを向けた?」「写真撮っていいですか?」「普通は写真を撮る前に言うことではないのか」「言ったら撮らせてくれないじゃないか」「消しなさい」「ふーふーしてるところも撮っていいですか?」「話を聞きなさい」スマホを奪おうとする最上さんの腕から逃げて、僕も笑った。なんでキミまで嬉しそうなの、と聞かれるのでおかしい。そんなの当たり前だ。最上さんが嬉しいと僕も嬉しい。