最上と茂夫
学校帰りにそのあやしげな雑貨屋に立ち寄ったのは、先日の放課後、暗田が「ちょーたのしそう」と話題に上げていた場所だったからだ。彼女が興味を持つあたり、さすがとも言うべきか、店内には期待を裏切らないへんてこな品々がごった返している。惚れ薬、歌うサボテンの種、妖精の尻の毛、食べても食べてもなくならないグミ。ほとんど面白半分で陳列棚を眺めていた茂夫だったが、ある商品の前で足が止まる。日を浴びて飴色に変色した紙には、マジックインキで「転生の石」と記入してあった。あの、すみません。奥の座敷でタバコをふかしている、店主らしき人物に声をかける。これって、誰が対象でも大丈夫ですか? 店主は首をかしげる。んん、どういう意味それ。なんか、悪いことしちゃった人相手でも、生まれ変わらせてもらえるのかなって。叱られた幼子のごとく珍客は言う。良し悪しは人が勝手に騒ぐ問題だからね、神様は知ったこっちゃないと思うよ。黄色く濁った瞳をひしゃげて、寂しそうに女は笑った。かくして 500 円を支払い、茂夫は目当てのものを手に入れた。自室の蛍光灯の光に石をかざしてみても、特に変わったところのない、ただの灰色の平たい塊。それでも茂夫はいてもたってもいられなくなる。黒い影が壁をすり抜けてきた直後には既に立ち上がっていた。これを私に? はい。何故? プレゼントです。それと、できれば肌身離さず持っていてほしくて。敷布団の上に直立する茂夫は、自分の心臓の音をちょっとうるさく感じている。そんな彼を知ってか知らずか、最上が念を押すように尋ねる。一応聞いておくが、これは私のためにきみが選んで、贈るにいたったものなんだね? そうですけど……。やはり石をプレゼントですだなんて説明、おかしく思っただろうかと茂夫は焦る。しかし用途を伝えたところで受け取ってもらえない確率が増す気がするのだ。それに、嘘を言ってるわけではないし。だまり込む茂夫をしばらくの間凝視する最上だったが、まばたきを忘れた茂夫の瞳にかすかな水の膜が張られてきた頃合いでふいと視線をそらす。すまない、少し驚いてしまって。ありがたく受け取るよ。その後ちょくちょくと茂夫は贈り物の所在を確認し、そのたびに最上は上着の内ポケットにしまわれた石を取り出して見せた。手のひらサイズ大の鉱物は重量的にはけっこうな負担を強いたのだが、想い人の注文通り、たいそう永いこと最上は身につけてくれたのだった。