最上と茂夫

最上と喧嘩をしたらしい。ツボミちゃんが好きなんだ、と垂れたおかっぱの下から茂夫がぽそぽそと抗議している。芯があるっていうのかな、ちゃんと自分を持ってる子なんだ。ぼくと違って勉強もできて、テニスだって上手で、友達も多くって、何よりすごくかわいい。あの子と手を繋いで帰ることは今でもぼくの夢だ。けど、最上さんはそういうんじゃない。かぶりを振って茂夫は言う。理解者とか復讐とか、ほんと勝手な人だと思う。考え方も後ろ向きだし。でも、そういう、あの人のしめっぽいところを見るとたまらなくなる。ちょっと恥ずかしいけど、そんなわけないでしょって抱きしめてあげたい感じ。うまく言えない。とにかく、全然二人は違うんだよ。だから浮気なんかじゃ……。徐々にしぼんでゆ く語りに、エクボはふーんと鼻をほじりながらコメントする。今言ったことそのまま伝えてやれば解決すると思うぜ。どうして? そんなに簡単な話? 正直な気持ちを言やぁいいんだって。そうなのかな……。俺様を信用しろよ、お前の相棒だぞ? おどけた調子で親指を立てる友人に、茂夫はようやく、ありがとうとかすかに微笑む。しんきくせえな〜と丸まった背中をたたくエクボだが、しかし内心では肩を落としている。頃合いを見て引き離そうって考えてたが、もうこりゃお手上げかもしれねえ。相手の愚かしさをこそ想うそれの正体に、上級悪霊は気がついてしまったのだ。
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