最上と茂夫
死んでいるからといって、何も感じないわけではない。視覚や聴覚など、残存している機能は多い。条件を満たせばその他ほとんどの感覚についても、扱うことが可能である。さすがに生前と同じように、とまでは言えないが。特殊な例としては温度覚がある。こちらについては生身を拝借する必要はない。霊になってから分かったことだが、この世の物質はすべからく、体表面にうすい波のような気をまとっているのだ。生き物だとことさらに波は強くなる。オーラと呼んでもよいだろう。超能力者のそれはさらに強い。死んでいる私でも、おぼろげなあたたかみを感じるほどに。目を閉じ、視覚を遮断すれば、より強くそれに集中することができる。だから、眠ることがなくとも私は目を閉じる。下ろした瞼や、目元、頬をあたたかな波がかすめていく。おやすみなさい、と腕の中の生き物が言う。凪いだ海に似たそれにただ揺られていた。ここでなら終わってもいい、そんな馬鹿なことを考えていた。