最上と茂夫

K:向かい合ってキスをしてるとき、次はいつ会えそうですか、と最上さんに聞いてみた。終わったばかりで良い雰囲気だったから、うっとうしく思われるかもなって心配もあったけど。一言伝えるだけで早く会えることになるならそれでもいいと思って。そしたら最上さんはちょっと黙った後、ぼくの左の鎖骨を親指でなぞり、これが消える頃にまた来よう、と低い声で言った。丁寧な手つきをしてるのに、目がどこか冷たくて、どきっとする。そうですか、と一応は返すけど、言い終わらないうちに下を向いて恥ずかしさをまぎらわした。のぼせた頭の中で、最上さんの声と目と仕草が何度も響いてる。これが消える頃に来るとか、どうしてこんな台詞が自然に出てくるんだろう。こういうの、キザって言うんだよな。もしかして狙ってやってる?今日は頑張れたつもりだったけど、最上さんは足りなかったのかな?うつむいてるとお互いの下半身が嫌でも目について、服を着てないのが急に恥ずかしくなってくる。自分のだけでも隠したいのに、意味深に内ももを撫で上げられるからそれもできない。顔をあげなさい、と無茶を言う声はしている時の口調にも似てる気がして、心臓がますます情けない感じになっていく。くそ、今のぼく、目がハートになってるんじゃないか?

M:次はいつ会えるかと問われたので、つけた印が消える頃にと答えた。私の答えに少年はうつむく。さて何と答えるのやら。私が痕を残した部分を、少年がときどき指でつねっていることは以前から知っている。消えないよう付け直しているのだろう、その心理自体はかわいらしい。だが力加減が下手なのか、ときたま痛々しい色合いになっているのを見かけるのだ。内もものこのあたりなど特にまずい具合である……。渋面になりながら、ももの付け根に位置するそこを見つめる。二週間ほど前に強く吸った箇所であり、本来なら鬱血はきれいに消えているはずであった。青く変色したそこに触れると、影山くんの体はわずかに震えた。痛むのか、ただ感じているだけなのか。視界の端で彼の体の中心を捉えればわずかに反応していて、愚かな、と私は呆れる。呆れつつも無言を貫く。こんな馬鹿な真似はするなと諭したい気持ちは山々だが、自分にも非がある手前、強く出ることができずにいた。初めから私が痕をつけなければ済むことだったし、そもそも普通の頻度で会いに行けていれば、影山くんもこのようなこじれた行動を取らなかっただろうから。元を辿れば自分の過失であるので後ろめたく、なんと言葉をかけるべきか分からない。卑怯なことだが、できれば影山くんの方から話を切り出してほしいとすら考えている。なので不器用かつ卑怯な大人である私は、うつむく少年の内出血が長引く太ももを撫でながら、その顔を上げるよう求める。もうしないと言え、と内心で念じながら。すると少年は「はあと」がどうたらなどと口ごもるのだ。予想の斜め上をいく返答に開いた口がふさがらない。歯跡まで要求するとは、なんという子どもだろう!
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