最上と茂夫
ジィワジィワと夏の虫が生命を謳歌する中、せんべい布団の上で二戦目にさしかかろうしたときだった。影山くんの様子が妙だ。ぼうっと熱に浮かされたような顔で、こちらが呼びかけても反応が遅い。のぼせてないか、と問えば、そうかもです、とぼんやりとした返事が来る。現実と変わらない設定温度にしたのだが、交わりを行うには暑すぎただろうか?と私は考え、身を起こして障子を開けようとする。けれど首に回された腕がそれを許さない。外の風を入れるだけだ、と説明しても、強情な腕にはいっそう力が込められていく。そんなのいいです、なんならもっと暑くして大丈夫ですから……と、熱っぽい声色で訳の分からぬことを影山くんは言い、ましてや、膝を立てて私の腰を挟んでくるのである。行為の続きを強請るにしても、彼にしては淫猥で、らしくない仕草だ。常ならば大歓迎だが、様子が不審なだけにどうにも違和感を覚えてしまう。キミすこし変だぞ、と眉をひそめても、蕩けた瞳は一心に見つめてくるばかりだ……そういえば、やけに今日は目が合うような……。視線を合わせていると自分までおかしな気分になりそうだった。はー、と私はため息をつき、考えることを中断する。額に垂れる汗が煩わしくて拭う。精神世界といえども汗をかくのは死んで以来初めてで、邪魔くさいといったらない。濡れた前髪をかきあげながら、なあこれ消していいか、と発汗の導入を望んだ影山くん本人に申し出る。絶対ダメです、と少年はまたも却下する。惚けている割には、その部分のみいやにしっかりした口調で。やはり汗水垂らす生身の人間を求めているのだろうか、と最上の胸中には暗雲が立ち込めてゆく。茂夫が心を傾けているのは微妙に異なるポイントなのだが、気づかずじまいであった。