最上と茂夫
辺境に住む日本人を訪ねる番組の中で、アフリカの小さな村が取りあげられていた。草木が少なく、黄白色の地面が太陽にむきだしに晒されているような簡素な村。その中で、村長宅だけがいやに立派な石造りである。それについて芸人が尋ねれば、この建物は日本でいう裁判所でもあるんです、と男は説明した。この村では村長が裁判を取り仕切ってまして。昔は執行までしてたらしいです。ものすごく悪いことをした人がいたとして、死刑という判決をくだすのに加え、崖から落とす役目まで村長が。もちろん、今は大きな事件が起こったら警察を呼んでますよ。昔の話です。執行人という役割はどこの国でも必要とされるが、大抵は忌み嫌われるものであり、地位の低い人間が担うことが多い。しかし、その村では何故か代々村長の仕事であったそうだ。他にも特殊な文化が根ざしていて、それを調べるために一時的にそこに住んでいるのだ、と画面の中の日本人は言った。普段は現地の子どもたちに勉強を教えているという。異国の地に一人、生計を立てる彼に対して、関心な若者だなと最上は思う。頭の隅では、どうせ罰をくだすのなら、そいつを最も憎む人間の手に委ねるのがふさわしいだろうに、とも。その後、台所から問いかけられた最上は、すぐにテレビのチャンネルを切って廊下をつっきり、数珠のれんをくぐりながら高菜と答える。卓上の傍らに控えるたまごふりかけにはやや渋い顔をして。そうして三角とひし形の握り飯が並べば、とりあえず明日は続いていく。振り返った景色がいつしか遠くかすむことを願わん。