最上と茂夫

いくときはひとこと言ってくれ、と言われたのは最上さんと色々するようになったばかりの頃だった。そのときはどんどんやってくる初めてに手一杯だったし、けど手一杯なりにああだこうだ考えてもいたから、してる間最上さんがずっと難しい顔をしてるのが気に入らなかったのもあって、ぼくは変に勘ぐった。どこにも行きません、とか返した気がする。あんまり思い出したくないけど、多分そういうことを言った。知識のないぼくに気が抜けたのか、呆れたのか。それとも重いよってツッコミたい感じだったのか。実際どう思われたのかは知らない。ぼくの返しに最上さんは一瞬、面食らったみたいな顔をして、そしてほんのちょっと目を細めた。それからは、ぼくが苦手な難しい顔は出てくることが少なくなった。穴があったら入りたくなる思い出だけど、まあ結果オーライってことで。空気が読めないのはいつものことだし、笑った顔も見れたしね。
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