最上と茂夫

レンガの道が陽の光を反射して白く光っている。空を見上げると澄んだ青が広がり、ちらちらと落ち舞う桃色の色彩を引き立たせていた。ここには私ときみだけだ、と男は言った。そういえば蝶の一匹すら飛んでいない。こんなに静かだと寂しいな、最上さんは寂しくありませんか。ちっとも。私にはきみしかいらないからね。茂夫の横髪を耳にかけてやりながら、男はそのまますいと顔を近づけ、少年の唇を唇でなぞる。不思議なくらい優しい目が茂夫を見つめていた。どうしてそんな嘘つくんですか?思ったままを口にすれば、途端に木々が騒ぎ出す。どうしてそんなうそつくんですか、どうしてそんなうそつくんですか、どうしてそんなうそうそうそつき。風が楽しそうに渦を巻き、花びらが踊る。土ぼこりと共に通り過ぎてゆく嵐を見送れば、いつの間にか一人になっていた。豊かに香る春の盛りの中、とりとめのない考えが浮かんでは消えていく。何に化かされたのだろう。なぜ最上さんに化けたのだろう。本物のあの人ならどんな顔で嘘をつくのかな。納得のいく答えは見つからない。地面に散乱した花びらのうち、一番きれいなものをポケットに入れて帰った。
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