最上と茂夫

影山くんは寝付きがいい。基本的に、布団に入って数分も経たぬうちに穏やかな寝息を立てる。部活で体を動かしていることも関係しているのだろう。夢の世界でも仲間と共に走っているのか、時たまおかしな寝言を言う。聞き取りづらいが、「タイム短縮」やら「新記録達成」やら、そういった内容である。にくかい、ふぁいおぉ。にくかい、ふぁい、おぉお。間延びしたかけ声らしき台詞に、彼自身がぱちんと覚醒したことがある。私は私で眠ることは勿論ないので、彼の興味深い寝姿を観察しており、そのため視線がかち合ってしまった。初めて体を洗われた猫のような、純な驚きに満ちた瞳の丸さは今でも忘れない。気まずそうに伏せられた、ささやかな睫毛の下の羞恥の色も。ゆるく開いた口から生温い呼気に乗って流れるそれに、最上は今宵も飽きることなく耳を傾ける。青く透明な夜の光が部屋の隅まで届いている。
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