最上と茂夫
きゅういきゅういとサギがそこかしこで鳴いている。繁殖が進みすぎた彼らのために、飲食が制限されるためだろう。シーズン真っ只中の海にもかかわらず、観光客がまばらである。ひと昔前に来たときは、海鳥の数にも劣らないほどに栄えた様子であったのだけれど。古びた感傷にふける最上であったが、眼前に落ちた影に不意に思考を遮られた。一段先の岩場を見上げれば、汗に濡れた黒髪が潮風にはためいている。あげます。夏の色を宿した麦わら帽子が、生白い手から最上の頭に据えられた。ぼくには大きすぎるみたいだから。光の粒がばらまかれたような海を背に立ち、ふたつの若い瞳が最上だけを映している。これまた白い頰をゆるませて、少年は笑む。似合ってますよ。意外に。礼を欠いた言動は、この時の最上には気にならなかった。錆びの浮いた思い出も、狂おしい衝動も。全てが遠いものに感じられて、悪霊はため息をつく。今この瞬間ばかりは世界が完全だ。