最上と茂夫

気まぐれに喰らおうと狙った相手が予想よりはるかに狡猾だった。複数の人体がねじれて絡まり、ボール状をとったかのような巨躯の霊。通常このように、外観がまともでない集合体は力が強くとも知性が残っていない。つまり大したことがない。そう油断してかかったところ、思わぬ反撃をくらい、挙句の果ては利き腕を持っていかれた。元よりおびただしい数の魂が凝縮された最上の霊体である。その一部を取り込んだ件の集合体も、ただでは済んでいないだろうが、最上とて再生には時間がかかる。格下に遅れをとった屈辱は最上のプライドをじわじわと侵食した。地の果てまで追い詰めて、いたぶりながら殺す。悪霊らしい残忍な思考を巡らせる最上であったが、しかし恋人との会合ですぐさま様相を変える 。どうしたんですか、それ。こわばった表情を浮かべる少年の、渇いた声といったら。常より幾分目尻を和らげ、いかにも心配をかけまいと平常に振舞っているかのごとく、謙虚そうな顔をして最上は言う。みっともない姿を見られてしまったな。まあ、上には上がいるということだ、影山くん。滅多にないことだが、その後も最上は時折負傷した。恐怖映画を見たので夜中にトイレに行けない。勉強が分からないから教えてください。大事な用事があるけど一人じゃ起きられるか不安だから。まぶたをひきつらせながら、なんとかして最上の滞在を長引かせようと、少年はねばる。内容の軽さの割には切迫した様子に、最上はほの暗いよろこびを噛みしめる。狩り中に手を抜いて霊素を散らす。手間がないこともないがな。
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