最上と茂夫
どこから入ってきたのか、茂夫の部屋にヒトのものらしき霊魂が迷い込んできたことがある。長く彷徨っていたらしい。磨耗しており、もはや消滅を待つばかりだと見えた。近づいてきたそれを茂夫は両の手に乗せる。霊魂はときおり震え、極彩色に揺らめいた。花みたいだ、と茂夫は言う。きっとやさしい人だったんでしょうね、今まで見た中で一番きれいだ。そうして静かに目を伏せる。いとけないひとみは花の色を反射して、清らかな彩りをたたえていた。死は不可避の孤独を与える現象と思っていたが、どうやら例外もあるらしい。そうだなと最上は短く同意し、幼いまなこを見つめ続ける。花がついえるまでずっと。