最上と茂夫
天気が荒れれば人の心も影響を受ける。大粒の雨が屋根板に当たり、波のような音を立てるなか、最上と茂夫の間でいさかいが起こった。一口にまとめると、茂夫が最上のいうところの「世直し」に口を挟み、最上がそれを斬りふせるといった具合だ。似たような問答はこれまでにも何度かあったが、回を重ねるごとに茂夫は食い下がり、最上は意固地になっていった。他人のキミに指図される筋合いはない。とうとう拒絶するような言葉が放たれ、同時に、プツリと部屋の電気が消えて暗闇が訪れる。雨足が強まり、全ての音を飲み込むかのごとく降りしきる。ぼくだって。だからそれよりも大きな声で内気な少年は言う。ぼくだって、最上さんの力の使い方を否定したいわけじゃない。ただ、のぞんで暗い場所に行くみたいな、そんなことをこれ以上あなたにしてほしくないんだ。遠くで雷の音が聞こえる。少年は手を伸ばし、そこにいるはずの男の感触を追う。指の一本でもいいから掴んでくれと切に願いながら。だって、こんなにも真っ暗なのだ。こちらから差し伸べるだけでは、届くものも届かないじゃないか。