最上と茂夫

淡い水色がぼんやりと視界を覆っている。どこにいるのか一瞬分からなかったが、覚醒してくるにつれ、それが自分を抱きしめている少年の寝衣だと気づいた。視線を上にずらせばまろい頰と伏せられたまつ毛が目に入る。カーテンの隙間から朝の白い陽光が差し込み、流れた髪を金色に縁取っていた。平らな胸に耳をすませば心音がとくとくと繰り返している。離れ、近づき、また離れていく。いくども巡る音に聴き入っているうちに、最上は先ほどと同じ疑問を浮かびあがらせる。私はどこにいるのだろうか。やわらかすぎる腕に包まれながら男は思う。ここは何もかもから遠い。こなごなに砕かれたときの記憶すら、私を追ってはこなくなる。もう起きたんですか。もがみさん。眠そうに眉を寄せ、体をゆする茂夫に、いいやと一拍遅れて最上は返す。まだだるい。だからもう少しこのまま。そうして最上は体を縮め、少年の胸にもぐりこむ。何もかも手放したような顔で。何もかもから遠い場所にて。
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