最上と茂夫
暗い森を歩いている。緑がうっそうと茂る、暴力的なまでに豊かな森。土と葉と湿気の香りが、鼻の奥にささるほど。顔を上げれば天高くそびえ立つ樹木の頂上が見える。赤く大きな実が連なり、わずかに射し込む月光に照らされ、つややかに光っていた。遠足でも旅行でも、こんな場所には来たことがない。けれどもどこか懐かしさを感じる風景だ。入り組んだ木の根がはしる地面に足を取られて転ばないよう、注意して歩を進める。はじめは冒険家のような勇ましい心地で。けれどそのうちに飽きがきて。そして、だんだんと怖くなってくる。美しい森であるのは確かだ。しかし、なにかがひそんでいる。なにか計り知れないものが。ぼくの中にあるのに、ぼくの手には負えないそれに似たなにか。広すぎて自分 がどこを歩いているのかも分からない。まるで巨大な生き物の胃に迷いこんだみたいだった。森の空気とぼく自身との境い目がぼやけて曖昧になる中、歩みを止めそうになるぼくの右手を何かがつかむ。ぐいと引かれるままに行けば、周りを取り巻く濃い霧がうっすらと晴れていった。きをつけなさいよるにはまものがすんでいるから。森の色とはまた違う種類の緑をまとった影がそう言う。 気がつけば見慣れた天井が視界に映り、ぼくは布団から身を起こす。どうにも変な気分だった。握られていた手のひらを落ち着かない気持ちで少年は眺める。怖い夢から覚めたなら、ほっとするだけでいいのに。朝を寂しいと思うなんて。