最上と茂夫

異常気象が続いている。ニュースを見て思うところがあったらしい。もしもの話ですけど、と寝入りばなに影山くんは呟いた。もしぼくが、自分に勝てない日が来たら。こちらに背を向けている少年の表情は読めない。静かな声が照明を落とした室内にこもる。多分、止められるのはあなたしかいないから。その時はぼくを。先を待たずして、失望だなと最上は言う。欲や衝動に負けて意思を貫けない、半端者の特徴だ。そんな人間ならためらわずに殺せるぞ。縮こまる背中に淡々と続ける。何を思い出してるのかは知らないし、聞くつもりもないが。浅桐みのりに何をしたかは忘れたのか。人は変われると豪語したのは誰だ。私が認めたきみは簡単に落ちるような人間じゃない。たたみかけるように男は言い、震える肩に毛布をかぶせる。今日は冷える。夜もふけた。早く寝なさい。ため息をつきたいくらいの気分だったが最上は我慢し、らしくないと思いながらも、丸まった体を背後から抱きこむ。ぎこちなくもやさしい手つきであった。
42/60ページ