最上と茂夫

学校が三限で休みになった。インフルエンザがはやってるから。部活に行けないのは残念だ。でも、休みと聞くとやっぱり喜んでしまう。まだ明るい帰り道を贅沢な気分で歩いた。ラッキーなことは続く。帰ったらなんと最上さんがいて、窓枠に腰掛けて雑誌(なんか難しいグラフがいっぱい書いてあるやつ)を読んでた。不法侵入と言えばそうなんだけど、おかえりって言われると嬉しさが勝つ。会うの久しぶりだったし。高揚したぼくは、なんでもかんでも最上さんにしゃべった。しゃべることがなくなってもしゃべった。帰りに教室で配られたプリントの内容まで披露する。一回のくしゃみでどれだけ菌が遠くまで飛ぶのか、正しい体温計の使い方や、脇→口腔→直腸の順で体の中心に近づくほど温度が高くなること。どうでもいい知識だけど、知らないものもあったらしい。この歳になっても学ぶことは多いな、と言って最上さんは少し笑った。最上さんは垂れ目だ。垂れ目の人が笑うと目じりがますます下がって甘い感じになる。うわあ、ってなったぼくは少し目線をずらして、なるべく甘くなさそうな話題を選んでしゃべった。この前の体育のバレーが散々だったこととか。最上さんの笑った顔がやさしいのも、それを見たぼくがうわあってなるのも、恥ずかしいのを隠すためにくだらない話をいつまでも続けるのも、大体いつも通りだ。いつも通りすぎて気がつかなかった。自分がどれだけまずい情報を最上さんに与えてしまったのか。どうしてぼくってこう迂闊なんだろう……
45/60ページ