最上と茂夫
時給300円にまつわる話はたびたびふたりの間で持ち上がる。ちょっと安すぎる気がする、といぶかしむ茂夫に対し、最上の意見はめずらしく寛大だ。金というより他のもののために働いているんだろう、目的は達成されてるからいいんじゃないか。確かに相談所で学んだことは多い。しかし社会科で調味市最低賃金を学んだ茂夫である。どこか腑に落ちない。まだ中学生だからなのかな。高校に上がれば少しはアップするのかな。その辺は雇い主に聞いてくれ……そんなに金がほしいのか。だって、あって損するものじゃないし。そこでなぜか最上ははたと宙を見つめた。きみ、私が時給400出せばそこ行くのやめるか。え。突飛な質問に茂夫はおののく。やめませんけど。だろうな。何ですその質問。別に。ただの確認だ。相手の意図が分からず、少年は首をひねった。会話は途切れ、聞こえるのは悪霊が新聞記事をまくる音のみとなる。実のところ、最上だって自分の発した言葉の意味を分かっていない。指摘されれば否定しただろうが、この時すでに最上にとって茂夫は理解者でもなく、投影の対象でもなかった。彼であるがゆえの彼を愛しはじめていたのだ。