最上と茂夫

俺たちの仕事はクレーンの真下にじっと座っておくようなもんだ。
飲み屋で昔、祓い師の男がそういった言葉をもらしていた。奇特な男で、「得意先の半数を持っていかれる」と当時同業者から目の敵にされていた最上に対し、顔を合わせるごとに酒席に誘ってくるような陽気な人間であった。そして臆病でもあった。魂を相手にする生業をいつまでも怖がっていた。
たいして悪さをするわけでもねえ霊魂を、やれ気味が悪い、やれ地価が落ちるっつって寝ぐらから追い出しちまう。金を積まれりゃ問答無用で祓うこともある。いつかしっぺ返しをくらうんじゃねえかと思うんだ。頭のずぅっと上の方に、負債がどんどんつれ下がっていってるんじゃねえかって。ただの人間のくせして、そこにそうあるべきだったかもしれないものを動かした、業っていう負債が。遠い未来それが必ず降ってくるとしたら。最上、お前はどう思う? 恐ろしいと思わないか?
自分がその時、どのような返答をしたか最上は覚えていない。覚えているのは、晩年仕事で殺した女がたまたまそいつの妻だったということと、仇打ちにやってきた陽気男が相も変わらず同じ問いを投げかけてきたことだ。最上と男の力の差は歴然であり、結局男は死んだ。しかし男の問いかけは死んでもなお生々しさをともなって再生される。最上、お前はどう思う? 自分の業を、そのしっぺ返しを、お前ひとりだけがかぶるわけじゃないって可能性が、恐ろしいと思わないか。生きたつながりを作ってしまった今、悪霊は途方にくれる。本当に人を想うのなら、初めから触れるべきではないのかもしれない。
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