音駒高校
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出張が続いた
世の為、人の為、バレーの為
全国を飛び回るのは楽じゃない
(でも、この仕事も嫌いじゃない)
黒尾はキツく締めたネクタイを緩め、
何日ぶりかになる自宅の扉に開ける
その部屋の中には○○が立っていた
「おかえり」
シンプルな一言
数日聞いいなかっただけなのに、
とても久しぶりに聞こえるその声は
スーツと共に固まった彼の心を解す
「お疲れ様。夕食は……」
「飯はいいや。済ましてある」
彼女の言葉を遮る様に彼は言う
手を出した彼女にカバンを預け、特に何を言うでもなく部屋に入る
出掛けた時と何も変わらない部屋の様子に不思議と笑みが溢れた
「お風呂入れるよ」
「はーい。そうさしてもらいます」
彼はそう言うとジャケットをソファに置いて
風呂場に姿を消した
彼女とは高校からの付き合いだ
バレーに熱中する彼を可も不可もない態度で見守る彼女
社会人になる時
"一緒に住みませんか"
って聞いたら無言で彼女は頷いた
それから今に至る
出張で家を開ける事が多い彼に対して彼女は何も言わない
少しくらいゴネてくれると嬉しい
とか考えた事もあったが、
同僚から女に泣かれた話を聞いたら
平然とされている方が思いの他楽だと気付いた
あまり感情を言葉にしない彼女
感情を表情に出さない彼女
不安も悲しいも、寂しいも、好きも愛してるも言葉にしない彼女
そんな彼女に彼もいつしか意地を張るようになっていた
(好きとか愛してるとか……考えてる自分が気持ち悪い)
かぎ慣れた風呂場の匂い
見ると安心感を得てしまう天井
たっぷりの湯船に体を沈め彼は目を閉じた
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黒尾がリビングに戻ると○○はソファーに座っていた
ソファーの上で膝を抱え、聞こえているか分からない音量で流れるテレビを興味なさそうに眺めている
(好きじゃなければ消せばいいのに……)
彼女の表情は動かない
何を考えているか分からない
"消せばいい"それはテレビか自分か……
そう思うと胸がきゅっとなった
「クロ、何か飲む?」
「自分で出来るので大丈夫ですよー」
彼はそう言って冷蔵庫の前に立った
いつからだろう
こんなに素直になれなくなったのは
思った事を口に出来なくなったのは
「はぁー」
冷蔵庫の扉に手をかけてためいきをつく
もう大人なはずなのに、子供じゃないのに
「クロ」
呼ばれた声の方を彼が向くと、彼女が近くの柱に半分隠れて立っていた
「クロ」
「何ですかぁー?」
「ちょっと……呼んだだけ」
「はーい、意味わかりません!」
「名前……呼びたかったの」
そう言って全身を柱に隠す
隠れる瞬間
彼女が少しその鉄仮面を崩しているのが
彼には分かった
寂しくて、言えなくて、会えて嬉しくて……
色んな感情が一瞬にして伝わってきた
(あぁー、もうっ)
彼は柱に隠れた彼女の腕を掴むと
そのまま自分の胸元へ引き寄せた
「寂しかったし、会いたかったよっ!
連絡あんまないし、浮気とか心配した!
帰ってきても普通だし寂しかった!
俺は、○○が好きです、大好きです、愛してます!」
一言一言音にする度に腕に力がこもる
変わらない香りが腕の中で、顔を体にこすりつけてくるのが分かる
(あぁー、俺の意地ってなんだったんだろ)
帰ってきたら一番に抱きしめたくて
抱き潰したかったのに
意地張って、何でもないふりして我慢して
こんなんなら素直になれば良かった
「満足ですかー。俺に言う事言わせて。
黒尾さんは敗北感満載でーす」
知ってるよ
○○が可愛い事なんて
誰にも譲れない事なんて
ただ、いつもこっちからばっかりで少し寂しかったんだ
一方通行みたいに感じて不安だったんだ
「クロ」
彼女は彼の腕の中から顔を上げる
「大好き」
高校生の時と変わらない
彼が彼女に惹かれた時と変わらない笑顔
あれから何年も経った
大人になった
だけど、この気持ちだけはいつまでも変わらないままで
「本当、○○には敵わないよ」
意地を張ることもあるけど
意地悪して悪態つくけど
"君が好き"
これだけはずっと変わらない
彼は彼女を抱きしめた