清陰高校
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3月
明日、いよいよ小田は進学のためこの家を去る
「引っ越しするけど、部屋はあんまり物がへってないね」
一つ年下の幼馴染である○○はそう言って部屋を見渡す
「必要な物は向こうで買うからなぁ、ベットや机はそのままや」
「ふーん。忘れ物大丈夫?」
「なんとかなるやろ」
小田はそう言うと自分の腰掛けるベットをポンポンと叩く
「まぁ、もう特に準備する物はないし、座れや」
「ベットに誘うとは大胆ですなぁ〜」
○○はニヤニヤとからかう笑みを浮かべる
「ばっ、ばかか!
色々言うやつはもう帰れっ」
「じょっ、冗談だよ〜。
お言葉に甘えさせて頂きます!」
彼女はそう言うと彼の隣に腰掛けた
小田の卒業式
晴れて恋人になった二人ではあるが長年の幼馴染感は消えず、恋人らしい事にいまいち進展はない
「なんか……不思議だね」
「不思議……か?」
「うん。明日から、しんちゃんが隣にいないの」
「……」
物心ついた時から一緒にいた
保育園から学校までずっと一緒
下手をすれば家族より共有した時間は長い
そんな二人にとって小田の大学進学は、大きな環境の変化だった
「みんなにね……一歳だけ歳が違う幼馴染って、歳が近くていいねっていわれるの。
でもね、今は一歳の歳の違いを凄く遠く感じるよ」
隣でうつむく○○
彼はそんな彼女にどんな言葉をかけたら良いか分からず、ぎゅっと拳を握る
「一歳ってさ、一年てさ、"一"ってつくけど毎日にしたら365日もあるんだよ」
「……」
「私、しんちゃんとこんなに離れるの生まれてはじめて」
彼女の声は語尾が震えていた
俯く彼女は涙を堪えて、無理やりな笑顔を作ろうとしている
それは……自惚れかもしれないが自分に心配をかけない為だと彼は感じていた
「なぁ……○○」
小田はそう言うと彼女の手に自分の手を重ねた
「一年なんて、あっという間や……そしたら○○もこっち来て、一緒にまた学校行こや」
"一年"と言う言葉を口にして、彼はその重さを感じた
簡単に発したその言葉には春夏秋冬、今までとは違うお互いが近くにいない日々が待っているのだ
一年ではなく365日と彼女が言い換えていた理由がよく分かった
「……抱きしめてもいいか?」
小田は静かに言う
驚いた顔を上げた○○は、一瞬で顔を赤く染めて視線を逸らす
そして、コクンと小さく頷く
彼は彼女の腰に手を回すとゆっくりと抱き寄せた
家のとは違うシャンプーの香りのする頭が、自分の腕の中にスッポリと収まる
気持ち良いくらいの温もりが胸板から伝わってくる
「弱音くらい言えや。我慢せんと。
頼りないかもしれんけど、俺は、俺のせいで○○が苦しいのが一番しんどい」
彼の言葉の後、彼女は無言で彼の体に回す腕に力を込める
そんな彼女の肩に彼は顎を落とし、抱きしめる腕に力を込めた
「好きやぞ」
感情が言葉になって溢れ出す
どうしてそんな簡単な言葉にしかならないのかと悲しくなる程、
そこに込められる感情は深く深く重たい
今、腕の中に収まる○○が愛おしくて仕方がない
ずっと幼馴染として鍵をかけていた"好き"と言う感情は、錠を壊して以降、溢れ出て仕方がない時がある
その度に小田は○○の存在が、
自分の中でどれ程大きいのか知るのである
「しんちゃん……」
「ん?」
「寂しくなったら、電話していい?」
「あぁ……待っとる」
「部活が休みで、テストなかったら会いに行ってもいい?」
「いつでも待っとる」
「キレイな人がいても……浮気しないでよ」
「そんなん、心配せんでいい」
「しんちゃん……」
「ん?」
「大好き」
胸板に顔を押し付ける彼女の腕に再び力が籠もる
「俺かて、大好きやぞ」
彼の言葉を最後に少しの間二人は抱きしめあった
次にいつ会えるか分からない愛しい恋人の温もりを忘れぬよう
静かに、ゆっくりと時間が過ぎる
ふっと彼女の腕から力が抜ける
それに気付いて小田も腕の力を緩めた
すると○○は、ぱっと顔を上げ彼を見つめる
その瞳からは、寂しさの色が少しばかり薄れていた
「ここでお別れにキスとかしないの?」
ニヤニヤした彼女のセリフに彼は慌てる
「いや、それは、したくない訳やないけどっ、俺、恋愛初心者やしぃ、ちょっと、まだ、心の準備がっ」
あたふたした彼に彼女はイタズラっぽい笑顔を向ける
「しんちゃんの初めては、全部私にちょうだいね」
その言葉に彼は思わず笑みを零した