第七特殊消防隊
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紺炉と○○はふたりで詰所への帰り路を歩く
昼間は温かいのに夜にはまだ肌寒い
そんな季節の夜更け
外を歩いているのは二人だけだった
「遅くなりやしたねぇ」
「書類の細い所の指摘が多かった……」
「疲れたでしょう」
「なかなか……」
○○は"疲れた"とは言い切らない
自分に厳しい彼女が、弱音を吐く事は殆どない
しかし"なかなか"とどっちつかずの曖昧な言葉を吐いたのは、
隣を歩くのが紺炉だから
その包容力に少し甘えているのかもしれない
「紺炉もこんな遅くにすまない」
「俺は好きでやってるから、気にするな
それに……」
紺炉は彼女を見下す
彼が言葉を止めた事に気づき○○も彼を見上げた
彼女の真紅の瞳は、炎の様だ
アドラバースト……それに近い強く真っ直ぐな赤は白い肌に映える
「紺炉?」
「ぁっ、ぃゃ、すまねぇ」
彼女に見惚れていた紺炉は現実に引き戻される
「"それに"どうした?」
「こんな夜中、女一人じゃ危ないですよ」
彼の言葉に彼女は一瞬、キョトンとした表情を浮かべるが
軽い笑いと共に前を向いた
「私を狙う輩なんざぁ、いやしないよ」
彼女の言葉に彼は、飛び出しかけた言葉を飲み込む
○○は強い
浅草で紅丸の次に強い能力を持ち使いこなす
しかしどんなに強くても女である事に変わりないと紺炉は思う
白くて、小さくて、華奢で……
時に折れてしまうのではないかと感じるほど儚い
彼女に惹かれている自分だけがそう感じるのか分からない時もあるが、
街を歩けば男に誘われている所を見かけるあたり勘違いではない
○○を狙っている男は多い
(俺だけのになってくれればいいんだがねぇ……)
歳のくせに臆病な自分がいる
惹かれている相手に最後の一歩踏み込めない
拒絶が怖い
決定的な否定を突きつけられるのが怖い
(若い頃なら突っ込んでたんだろうが)
形振り構わなかったあの頃なら○○を自分のにしていただれうか
惚れた、惚れられたの女が絶えなかったあの頃に出会っていたら、
今とは違う現実があっただろうか
いや、違うだろうと彼は思う
あの頃○○に出会っていても今と変わらない
拒絶が怖くて踏み込めない
それだけ○○には本気で惹かれている
「紺炉」
落ち着く彼女の声に彼は現実に戻る
「桜がこんなにきれいだったんだな」
彼女が見上げる視線の先
そこには満開の花を身に纏う桜の樹がならんでいた
「こりゃぁ、見頃ですねぇ」
二人は足を止めた
満開の桜は風に揺れるたび、数枚の花びらを宙に舞わせる
「明日、ヒカゲやヒナタ達と見に来てもいいな」
「そりぁ、いいねぇ。
折り詰めでま作りましょうか?」
「紺炉の弁当か……楽しみだな
私も手伝うよ」
「若はきっと酒がいるな」
「花見祭りになるかも」
○○は呆れ半分、楽しさ半分の笑みを浮かべる
紺炉はその横顔に笑みこぼす
「詰所の奴らとも悪くねぇが、騒がしいからな……
こう静か○○とふたりで見るのも、
俺は好きですよ」
彼女は彼を見上げ笑う
「紺炉は桜が似合うな」
「それは……任侠もんだからですかぃ?」
「いや、なんか大きくて落ち着く感じかな」
この笑顔を独り占めしたいと彼の欲が蠢く
いっそ自分のものだと公言出来てしまえば、こんなにももどかしい気持ちになる事はないのかもしれない
「桜……好きだな。散るのが惜しい」
「それなら……」
紺炉は垂れた枝をパキンと折る
桜の着いたその枝を○○の結われた髪に簪のように挿す
「それならいつも一番近くに居させてくだせぇ」
彼はそう言って彼女を抱き寄せた
はじめはビクっと体を強張らせた彼女だが、
次第に体の硬さが抜けていく
「紺炉?」
「少しだけ……」
「もう少しだけこうさせてくれ」
日付が変わる静かな夜
最後の一歩を踏み出せない情けない男は、
誰もいない桜の下で強く愛しい彼女を抱きしめた