地獄の狭間よりこんにちは
ヤヨイ
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「ミコ…?何だい、それは?」
「簡単に申し上げますと神にお仕えし、様々な祭り事で力を捧げる謂わば"祭司"のような職業に当たりますね」
(認識は間違っていない筈…)
巫女にあたる彼女達は神聖な儀式の際に舞や祈祷などで内なるエネルギーを神に捧げている様なものだし。
しかし、祭司なんて口にしてしまったがここには…。
「祭司…、フィオナと同じ職業みたいなもんかい」
「フィオナ…?同職者の方がいらっしゃるんですか…?」
ああああぁー!やっぱり彼女もおりますよねぇぇ!
もう、分かっておりました。居ないわけがありませんよねぇぇ!
記憶では彼女、とても気難しそうだから関わり合いは避けたいなぁ…。
そんな風に心の中で叫んでいるとデミ・バーボンは眉間に皺を寄せながら悩んだ末に息を吐き、目を逸らして質問に答えてくれた。
「あぁ、彼女はアタシ達をその力でよく助けて貰っているんだよ…だけど、今は…」
歯切れが悪い返答にじっと彼女を見つめる。
続きを答えるか迷いあぐねている状態だ。
彼女の様子、どっちに転がるのか…仲間としての"悪しき者"か"救うべき者"か。
「答えにくいようでしたら構いません。ぽっと出の私が聞いて良いものか分かりませんし」
「……気遣い感謝するよ。ここで突っ立っていたってしょうがないからね。アタシが荘園内を案内するよ」
「お忙しい中、ありがとうございます」
「気にしなくて良いさ。アタシが今回の新人の教育係だからね」
「それは、なんとも頼もしい先輩ですね」
「っ、ハ!最上級に厳しくビシバシと鍛えていくからね。立ち止まるような真似するんじゃないよ!」
「心得ました」
にこりと笑顔を浮かべ、デミ・バーボンに答えるとその姿勢が気に入って貰えたのか、出会い頭の警戒する雰囲気は少し和らいでニヤリと口の端を歪めながら挑発してくる。
さて、この目で確かめない事には変わりない。
覚悟を決めて一歩を踏み出し地獄へと身を投じようか。この門を潜れば逃げ出すことは出来ないだろう。それでも最後まで抗って爪痕を残してやるからね。
荘園の主殿。
〜*〜*〜*〜
「一応、アンタに警告しておくよ」
「?。警告ですか?」
「あぁ、訳はまだ言えないがあまり、交流を過剰にし過ぎないことをオススメするよ」
「過剰に、と言いますと?」
「無闇に相手の過去に触れたがったり、身体的接触を図ったり。その他諸々…。警戒心が元々、強い奴らが多い連中ばっかなんだ」
色んなものを抱えて、ここに来た人達ばかりだからそれはそうだろう。地雷原でタップダンスを踊る馬鹿なんて流石にいない。
「ここ最近はそれが上回っていてね。アンタも危険な目に遭いたくなければ避けておくに越したことは無いよ」
「そうなる迄の過程が合ったとお見受け致します。後ほどにでも避けるべき対象者などを教えて頂けますか?」
「アンタ…随分と物分かりが良いじゃないか」
「流石に来たばかりで"大火傷"したくはありませんからね」
おちゃらけて見たが、この発言で彼女に怒られたりしたらどうしよう。もう、何も口に出す事が出来ないな。
「…………クッ、あっはっはっはっは!アンタ、面白いこと言うじゃないか!気に入ったよ、ヤヨイ」
「え、名前…」
「ん?ヤヨイって名前だろう?アタシの事も好きなように呼べばいいさ。それに、これからもアンタって言うのは流石に面倒になって来ただけさね」
「ありがとうございます…デミさん」
「さん付けなんてよしとくれ。デミで良いよ」
「では、デミと呼ばせて頂きますね。これからどうぞよろしくお願い致します」
名前呼びを許してもらえるなんて私に対するデミの評価が少しずつ変わったらしい。とてもありがたい事だ。1人でも好印象を与えられたのはこの先必ず何かの助けになる筈。
「名前で呼んでもらってる筈なのに固すぎるのはなんでだろうねぇ?」
「敬語に関してですか?これだけは慣れるまで許して下さい。身に染み付いた性みたいなものですから」
だだっ広い道を歩み続けると目の前には大きな屋敷が見えて来た。その場所まで歩くと暗く硬い扉の前に立ち止まりデミは話を先に進める。
「ふーん?まぁ、良いさ。さて、ここから先はさくっと説明させて貰うよ。分からないことがあればその都度聞いて貰いたい、が。説明中に面倒な奴らに絡まれる可能性が高い。悪いが質問などは後日、改めてアタシに声を掛けてきて欲しい」
「お気遣い感謝致します。あの、デミ」
「なんだい?」
館の中に入る前の入念な打ち合わせをしてくれるデミ。彼女が相当、私に気を遣ってくれているのが会話の節々に感じ取れた。
彼女とは会って間もない初対面の筈なのに、無意識にデミの魅力の一つであろう姉御肌が発動している気がする。そんな彼女に迷惑を掛けないように神経を集中しなければ。
「先ほどから話に聞いている面倒な方々と、もしお会いした際には合図を頂けますか?」
「合図…?」
「はい。私を紹介して問題ない方には私の背中に触れて下さい。問題ありの方の場合は親指を私に向けて紹介して頂けますか?」
その言葉に横で寄り添って立っていた彼女は目を見開く。
「………アンタ、よくそんな事をこの短時間で思いつくね」
「名前呼びが外されてしまいました…しくしく。…生きていく上で警戒心が強ーいことに越した事は無かったものでして」
「そうかい。合図だったね、出来るだけ分かりやすくしてやりたいが難しい時は許しておくれ」
さぁ、入るよ。とデミはドアノブに手を掛ける。
扉が開かれるとそこには沢山の装飾品や日々使い古されているであろうカーペットが敷かれていた。
如何にも西洋の館の雰囲気を、醸し出している景観におお〜と感嘆の声を上げる。
「気に入ったかい?アタシが来る前とかは暗くて何が出てもおかしくないような場所だったらしいんだけどねぇ」
「そうなんですか。ここまで明るくなるのは、人が行き交う空間に何か力が宿るのかも知れませんね」
「……そうさね」
「デミ、その人が新しい人なの?」
2人で話し込んでいると突然、聞き慣れない声が掛かる。聞こえた方に目を向けると、数人の男女が立っていた。
驚いた。
この荘園の顔とまで言われる程の愛されヒロイン。麦わら帽子がチャームポイントの庭師にこんなに早くお目に掛かれるとは思わなかった。
そして彼女を取り巻くように2人の女性サバイバーと男性サバイバーがこちらを警戒するように目線を送っていた。
「エマ!ウィラにパトリシア、カヴィンまで一緒だったのかい。そうさ、これから新人を館の案内がてら荘園のルールやらを説明するところでね」
「そうなの。デミ、貴女も大変ね…ハズレクジを引かされた挙句、面倒なお守りを任されてしまって」
「ウィラ、口を慎まないか。まぁ、ウィラの言う通りデミには同情するがな」
「パトリシアちゃん、君も大概だよ…。新人のお嬢さんも来て早々すまないね。どうか気を悪くしないでくれ」
「カヴィンさんは本っ当に女の子には甘々さんなの〜」
「そんな事ないよエマちゃん」
あ、これは歓迎されてないのが丸わかりな展開ですね。さて、自己紹介をしても良いのかタイミングが掴めないな。
先程まで和やかに話していた雰囲気とは一変してピリピリと肌に刺さるような空気に早変わる。
突然の状況に困り始めると、すっと背中に温もりを感じた。
「まぁ、みんな。そう棘を含めないでさ、是非この子を歓迎してやっておくれよ。ヤヨイ、アンタなりに挨拶をかましてやりな」
(えっ、無茶振りでは?)
手を背中に触れたということはつまり問題なしという合図。
デ、デミーーー!なんて良い女なんだ、約束を守ってくれるなんて惚れてしまうやろーー!と思ったのに笑顔で谷底に落としてくるじゃないですか、このお人は。彼女の前世はライオンだった説を推奨したい。
私は恨みがましい視線をデミに送るとそれに気付いたのか本人は直ぐ様顔を晒す。
一呼吸し気を取り直すと、両の手を胸の前まで上げて握りながら姿勢を正し一歩前に出る。
「んんっ!僭越ながら先にこの場でのご挨拶、誠に失礼致します。私の名はヤヨイと申します。職業は巫女、恥ずかしながら職業を知って間もないので詳しく説明は出来かねますが一刻も早く皆様のお力になれるよう日々、尽力して参ります。どうか、若輩者の私では御座いますがご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い致します」
紹介が言い終わり口を閉じれば私は最後に一礼をする。過剰に謙るような紹介をしてしまったが、彼女達は気にも留めないだろうな。
私が言い終わってもしーんとした空気が周りを包み込み沈黙が流れる。
私に対して彼女達は一切の反応を示さない。初っ端から無視かーっ。これは先が思いやられるぞ、全く…。
「デミちゃんが、新人の子を名前で呼ぶなんて何事かと思ったんだけど随分と、不思議な子が来てくれたね」
この沈黙を破ったのはカヴィンという男性の方。
「今までは礼儀がない人が多かったけれど今回はだいぶ違うようね」
少し見直したのか鋭い目つきが和らいだのはウィラと言う女性。
「「ゴシドーゴベンダツ…?」」
難しい単語が合ったのか腕を組んで同じ方向に頭を捻るのはエマとパトリシアという女性達。
この場で思うのは間違っているかも知れないがその姿がなんとも微笑ましく感じた。
「これからも自分を教え導いてください。と言う、目上の方に送る祖国の言葉なんです。先輩である皆様は私にとって目上も同然ですので勝手ながら、そうお伝え致しました」
「「ほぉー」」
「君は…日本人かい?」
「えぇ、日本生まれですが…?」
カヴィンさんは私の返答に少しだけ眉間に皺を寄せたような気がした。ほんの一瞬だったのですぐに柔らかい表情に戻るが、今のは一体何だったのだろうか?
「そうか、俺の中で少し印象を変えなければならないらしい。申し遅れたが、俺はカヴィン・アユソ。職業はカウボーイだ。俺の事は好きなように呼んでよ、よろしくねヤヨイちゃん」
名乗り終わると彼はすっと右手を差し伸べてくる。
これは交友の証…。
どうしよう、彼がめっちゃキツく握り返してきたら。
まぁ、やり返せば良いか私、握力強いし。
そんな物騒な事を思い浮かべながら彼に応えるよう、私も右手を差し出して自分より大きな掌を握る。
「よろしくお願い致します。アユソさん」
私の考え過ぎか彼は普通に握るだけでそれ以上の事をすることは無かった。握手を終えると続けてウィラと呼ばれていた女性が近づいて来る。
「次は私ね。ウィラ・ナイエルよ。職業は調香師。自己紹介した上で申し訳ないけれど、あまり誰かと馴れ合うつもりはないの。まぁ、私のことは好きなように呼べば良いわ」
「かしこまりました。いつか機会がありましたら是非とも私とお話しをして下さい。では、ナイエルさんと呼ばせて頂きますね。私のこともお好きにお呼び下さい」
「…ふん」
私の返答が気に食わなかったのかナイエルさんはそっぽを向いてしまった。アユソさんとは逆の反応で温度差が激しいな。精神年齢が老婆の私じゃなければ死んでるぞ。
続けて前に一歩出てきたのは肌が黒いのが特徴的なパトリシアさんだった。
「次は私だな。私はパトリシア・ドーヴァル。職業は呪術師だ。君には誠意ある行動を今後も求む。さもなくば災いが降り掛かるぞ。…私のことも好きに呼んでくれて構わない、以上だ」
「忠告痛み入ります。何か私に気に掛かる事がありましたらその都度、声を掛けて頂ければと思いますドーヴァルさん。私のこともお好きなようにお呼び下さいね」
「…ふ」
最後にドーヴァルさんは笑みを浮かべながら後ろに下がっていく。彼女は話し方にちょっと厨二っぽいのがどこか親近感が湧いてくる。是非ともこれから、仲良くしていきたいもんだ。
さて、大トリがまだ残っている。
彼女こそ荘園のミス・ダークホース。
他の人達と会話をしている間もじーっと視線を感じていたのだが、それがとーっても怖かった。
そんな彼女は一歩前に出てくるとにっこりと微笑んで喋り始める。
「次はエマなのー!名前はエマ・ウッズ。職業は庭師なの。怪我をしたらしょうがないけど、エミリーに迷惑を掛けたら絶対に許さないなの…。エマのことは好きなように呼んで欲しいなの〜よろしくねっヤヨイさん?」
(こっ、こっわ〜〜!)
「こ、こちらこそ、よろしくお願い致しますねウッズさん。出来るだけ怪我をしないように気を配りますのでご安心下さい。ウッズさんの大切な方のご迷惑にならないように常に配慮致します」
「………ふーん?それなら良いなの」
彼女はそう言い残すと3人の元まで戻っていく。
流石ミス・ダークホース。とーっても怖い。
だって彼女、私と出会ってから終始目が笑ってないんだもん…。彼女の第一印象が恐怖一択だったよ。デレ要素がほんの少ししか感じられなかった。
「さて、各々紹介は済んだようだね。悪いんだけどまだまだこれからヤヨイを案内しなきゃいけなくてね。ここでアタシ達はお暇させて貰うよ」
内心ビクビクしながらもデミがすかさずフォローを入れてくれたおかげで、この居た堪れない空気から解放されると知り目をキラキラさせながら心の中で狂喜乱舞した。
「デミ1人で大丈夫なの?」
「なんだい、さっきまで同情していた癖に。平気さ。アタシ1人で充分さね」
「なら、私たちはここで失礼するわね。その前にデミ、こっちに来て頂戴」
「一体、何かねぇ… ヤヨイちょっと待ってな」
「え、はい。いってらっしゃい」
ナイエルさんに呼ばれたデミは私の側から離れて彼女達の輪に入っていく。ある程度、会話をし終えたのか私の元に帰ってきたデミは「待たせちまったね、行くよ」と声を掛けその場から歩き出してしまう。
彼女達とどんな会話をしたか分からないけれどもデミの雰囲気が少し、ピリついているのが感じ取れる。
何か言われでもしたのか…。まぁ、触らぬ神に祟りなしと言う言葉があるしここは触れないでおこう。
最後に4人に向けてお辞儀をするとそれぞれ手を振ってくれたのが見受けられた。
改めて彼女達に会釈をして、先に歩き始めたデミの背中を追い掛ける。