今じゃないだけ
腹を抱えて笑う男
夜。
かぶき町の居酒屋。
カウンター席。
酒を前に、坂田銀時はすでに半分できあがっていた。
隣には高杉晋助。
静かに、だがどこか疲れた顔。
「……で?」
銀時がニヤつきながら言う。
「続きは?」
高杉「……続きも何もねェ」
「いやいや。肩出し・ヘソ出し・ミニスカのカタログ見せられたってとこまでは聞いた」
銀時は身を乗り出す。
「そのあとだろ? 地獄は」
高杉は一瞬黙り、酒を一口飲んでから言った。
「……紫苑がな」
「うん」
「『じゃあパパも着て』って言った」
一秒。
「………………」
次の瞬間。
「っっははははははははははは!!!!」
銀時、腹を抱えて爆笑。
「おっま……!! そっち行ったかァァ!! 最高かよ!!」
「笑うな」
「無理だろ!! 高杉晋助・肩出しチャレンジとか、字面がもう犯罪予告だろ!!」
「殺すぞ」
銀時は涙を拭きながら続ける。
「で!? どうした!? 着たのか!? 着たんだろ!? 俺は見たかった!!」
「着てねェ」
「チッ……」
「舌打ちすんな」
高杉は淡々と語る。
「理屈で返した。俺が着たら家の空気が壊れるってな」
銀時、再び吹き出す。
「っは!! そんな冷静な声でそんなセリフ言うなよ!! 耐えらんねェって!!」
「嫁は笑い死にかけてた」
「だろうな!! 俺がその場にいたら確実に転げてたわ!!」
銀時はひとしきり笑ってから、ふっと真面目な顔になる。
「でもさ」
「……なんだ」
「ちゃんと否定だけじゃなくて、話聞いてやったんだろ?」
高杉「……ああ」
「条件も説明して、家の中ならってとこまで考えた」
「……ああ」
銀時はグラスを傾けて言った。
「それ、めちゃくちゃ父親してるぞ」
「…………」
「俺だったらな」
銀時は肩をすくめる。
「『ダメダメ!』って言って、話逸らして終わりだ」
「お前はそれでいい」
「いやよくねェ!! だから今も怒られてんだよ!!」
二人は少し笑う。
銀時はニヤリとする。
「しかしさ……着てって言われた瞬間のお前の顔、想像しただけで飯三杯いける」
「やめろ」
「今度、絵に描いてもいい?」
「本気で殺す」
銀時はケラケラ笑いながら言った。
「いや〜……娘ってのはよ……父親の限界を正確に突いてくるよな」
高杉「……ああ」
「でもよ」
銀時は少しだけ声を落とす。
「それを笑い話にできてるうちは、まだ余裕ある証拠だ」
高杉はグラスを置いた。
「……そうかもな」
銀時は最後に、満面の笑みで言った。
「次な」
嫌な予感。
「紫苑ちゃんが『じゃあ銀時さんは?』って言い出したら、全力で俺を呼べ」
「……巻き込むな」
「いや、俺は逃げねェ!! 逃げるけど!!」
「……どっちだ」
二人は酒を飲む。
笑いと、疲労と、少しの誇りを流し込みながら。
その夜。
高杉は一つだけ学んだ。
娘の話を銀時にする=二次被害確定。
だが──
それでも、話してよかったと思っていた。
